第135回接近遭遇「父と息子の邂逅」 |
~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~ ★森田遊太郎(23)★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、 その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているが、 最近ようやく恋人モードに♪ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 月の裏側に存在する銀河連盟ステーション。 レンはモニタールームにある個人専用ブースにいた。 そこでは何億光年も離れた星系と、 衛星通信によるリアルタイムな会話ができる。 やがて速やかに重々しい男の声が響き渡った。 「もう何年ぶりの再会になるのだろうか。 レン、わが息子よ」 目の前に現れたのは男性のホログラム(立体映像)である。 その彫深い顔立ちには気品と威厳はあるものの、 暗い翳りが刻印されていた。 「…お久しぶりです」 レンは、やっとそれだけのことを口にした。 するとソリュート王は彼の顔を凝視しながら遠い目をした。 「ますます似てきたな。王妃やソフィ王女に。 あの頃は幸福だった…」 「……」 レンは伏し目がちになり、何も言わなかった。 ソリュート王は咳払いをして言い放つ。 「用件は他でもない。 お前にソリュート星への帰還を命じる」 「!」 突然の帰還命令。 映像を通して有無を言わさぬ圧力を感じたが、 彼は神妙な表情で答えた。 「…僕はもう、あなたの息子でも王子でもありません。 それに、いまは一介の銀河連盟調査員です。 ですから、そのご命令に従うことは出来ません」 「断ると……?」 次の瞬間、ソリュート王の画像が激しく揺らいだ。 「このソリュート王たる私が、 お前の過去の大罪を全て水に流してやると、 こう言っているのだぞ」 「……」 「数年前、事故とはいえ化物のようなその能力で、 母親と姉を殺したお前を許し、 王位継承権を再び与えようというのだ。それを断ると?」 化物。 実の父親の口から、毒を含ませた言葉が続く。 まるで心臓が、生きたままえぐられるようで、 ようやく平穏さを取り戻した心が、 再び切り裂かれるような感覚があった。 「この父の命を背いても、 銀河連盟の調査などと称して、 そのように未開もはなはだしい地球で暮らす方が良いというのか?」 「…僕のことは、いい。どう言われても」 乾いた声で、レンは辛うじて言葉を紡ぐ。 「しかし、地球人を悪しざまに言うのは、やめてください」 「ほう?ずいぶん入れ込んでいるようだな」 ソリュート王は見下したように嘲笑し、 思い出したように付け加えた。 「まさか、地球人の女に惚れたのか?」 ソリュート王の言葉に彼は一瞬ピクリとなったが、 無言を貫いた。 「くだらぬ。そのような女と早急に縁を切り、 ソリュート星に戻れ。これは絶対命令だ」 その時ホログラムが分裂するように揺れ、 睨みつけていたソリュート王の映像がフッと消えた。 通信終了の音声が無機質に響いても、 レンはしばらく動くことができなかった。 抑えに抑えていたものが一気に噴出するように、 心臓が波打ち呼吸が乱れ、冷たい汗がこめかみから流れる。 (レン。どうした?) ふいに上司ロータスからテレパシーが伝わってきたが、 それには応えられなかった。 (…レン?) ロータスの声が、ひどく遠く聞こえる。 過去は何故どこまでも追いかけてくるのか。 何故、自分をそっと静かにさせておいてはくれないのだろう… レンはブースに身を沈ませたまま、顔を手で覆った。 日曜の夜。 雨がマンションのガラス窓を叩いていた。 桃子は携帯電話を睨み、独り言をつぶやく。 「ったく。あたしたちの一大事だってのに何してんのよ? 遊太郎のバカ」 電話も圏外でメールの返信もなかった。 それでも雨音が激しくなった頃、 かすかな音がして遊太郎がようやく帰って来た。 「お帰り。傘持ってなかったの?遊太郎」 頭からびしょ濡れの遊太郎を見て、タオルを渡しながら、 桃子が呆れたように言った。 「すみません。遅くなって…」 彼は上着を脱ぎ、ワイシャツだけになった。 少し青い顔をしていたが、 桃子は気づかず、早口で言った。 「シャワー浴びたら?風邪引くじゃん。 それとさ。あとで話があるから」 その時、雷が鳴り響いた。 部屋の灯りが停電し、きゃっと短い悲鳴をあげて、 桃子が遊太郎にしがみつく。 タオルがふわりと足元に落ち、 遊太郎は思わず彼女を強く抱き締めた。 ~第136回をお楽しみに♪~ |
by yu-kawahara115
| 2009-01-05 22:19
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