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ようこそ、川原 祐です♪
by yu-kawahara115
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第96回接近遭遇「月夜のバルコニー」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

●森田遊太郎(23)
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが。
最近ようやく恋人モードに♪

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

その夜。
桃子はマンションのバルコニーに出て、ぼんやりと月を眺めていた。
眠れなかったのだ。

遊太郎が突然失踪して2日目。
会社の課長には、遊太郎は目の具合が悪いと誤魔化しておいたが、
もう帰って来ないかもしれない。

バルコニーから見る真夜中の住宅街は、
寝静まって静かだった。
そういえば2人で同居し始めて半年。
こんなに1人ぼっちが寂しく感じるとは、
本当に自分でも意外だった。
となりの部屋に遊太郎が住んでいて、
もう当たり前になっていたからだ。


もう部屋に戻って寝なきゃ。
パジャマの上に羽織ったカーディガンを引き寄せた時、
バルコニーにふわっと渦を巻いたような風が吹き抜けた。


何もない空間から現れた見覚えのある青年は、
プラチナの髪に青灰色の瞳をしたレンだった。

「遊太郎…!」

桃子は叫んで飛びつこうとしたが、
ハッとして思い留まった。
何故なら彼にはまだ幻覚作用が働いていて、
自分が別人に見えているかもしれないからだ。

「……ふうん。帰ったんだ」

素っ気なく言って背中を向け、桃子は月を眺めるフリをする。
するとレンが近づいて桃子の背後に立ち、
ふんわりと後ろから彼女を抱きしめた

「すみません、桃子さん。
…僕は、あなたに酷いことをした」
低いトーンで、心から後悔している声だった。

「何言ってんの。あやまんないでよ…」

桃子は泣きそうになるのを我慢した。
「あたしこそ何にも知らなくて…
いまは、あたしの顔なんか見ない方がいいんじゃない?」

…遊太郎には、
あたしが死んだお姉さんに見えてるんでしょ…?
そう口にしようとし時。

「桃子さん、こっちを向いてください」
レンが桃子を自分の方へゆっくり向かせた。
そして彼女の顔を優しく両手で挟み込んだ。


「桃子さんの顔…」

レンは目を閉じて桃子の顔に触れた。
彼の長い指が、彼女の二重の瞼や勝ち気な眉、
ツンとした鼻、いつも文句を言い出す唇をなぞってゆく。

「遊太郎…」
桃子は声を詰まらせた。
彼は彼女の顔一つ一つを、まるで確かめるように触れている。

「これで大丈夫。何が見えていても
僕の中で、桃子さんを感じていることができる」
「感じて…?」

その時、涙の一粒が桃子の目から落ちて、
レンの指に伝って流れた。
彼は少し驚いて目を開けた。

「桃子さん…?」
「ごめん。なんか、遊太郎がめちゃくちゃ可哀相になっただけ」
「僕は可哀相ではありません。
あなたがいるから…」

真っ直ぐに桃子を捉える瞳があった。
おそらくはまだ、死なせてしまった姉の幻影しか映らない、
海のような青と灰色が溶け込んだ不可思議な瞳。

レンは桃子の額に、優しいキスをして、
彼女からゆっくり身体を離した。

「2日間も無断で職務放棄をしたので、
今から上司に叱られに行ってきます。
でも、ちゃんとまた戻りますから。
おやすみなさい。桃子さん」
「遊太郎…!」

またどこからともなく風が吹いて、
レンの姿が空間に消えた。
桃子は、もうっと唇を尖らせたが、すぐに笑顔になった。


帰って来てくれた。
何があったのかは知らないけど、
彼は自分のもとに帰って来たのだ。
もうそれだけで嬉しくて、何もいらなかった。


~第97回をお楽しみに♪~
by yu-kawahara115 | 2008-09-08 22:42
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