第178回接近遭遇「想念世界の十字架」 |
~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~ ★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 超童顔メガネのおっとりした新人営業マンは仮の顔。 その正体はプラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ その頃。 何も知らない桃子は、日曜日の気怠い午後に、 マンションで母親の博子の電話に不機嫌になっていた。 「なんの用?」 乱暴に出ると博子が呆れる。 「なに、親に向かってその言い方。 せっかく遊太郎ちゃんとの仲を認めてあげようと思ったのに」 「はあ?」 彼女は頬を丸く膨らませた。 何よ、急に。 イトコ同士で付き合うのは反対だって言ってたくせに。 すると博子が大袈裟に咳払いをした。 「どこの馬の骨ともわからない男より、 イトコで、三つも年下でも遊太郎ちゃんなら安心だって、 お父さんが言い出したのよ」 「へえ?」 つまり、自分と遊太郎の付き合いを許したという意味だろうか。 「ひょっとして」 「そうよ。遊太郎ちゃんが出て行って、あんた、ずっと変だったでしょ。 だから、お父さんが心配してうるさいの。 まあ、最初、あんた達を一緒に同居させたのは、こっちだし。 別にイトコ同士で、そうなって悪くないわけだし」 「そんなの、最初っから言ってるじゃん」 はいはい、と博子の鼻白んだ顔が想像できた。 「だから、早く遊太郎ちゃんを社員寮から呼び戻しなさいよ」 言い捨てて、一方的に電話を切った。 桃子は、現金にもバンザイをした。 実際、遊太郎はイトコのフリをしているので、 良心が少しばかり痛んだけれど仕方がない。 あとは、彼が父親のソリュート王と和解するだけだが… ふと、桃子は彼が使っていた、お揃いのマグカップを手にした。 そういえば昨日、離れた場所でも、彼は気持ちを送ってくれていた。 だから、強気でソリュート王に意見も出来たのだ。 同じことが自分に出来るとは思わないが、 月にいる遊太郎、つまりレンへ、気持ちを送ってみよう。 桃子はカップを温めるように両手で持ち、 レンの顔を思い浮かべてみた。 勢い込んだのは良かったが いつの間にかウトウトしたようだ。 気がつくと桃子は暗闇の中を歩いていた。 きっと夢を見ているんだろうなと思いながら、 ( ねえ。遊太郎、どこかにいるの? ) と、話しかけてみた。 (こんな真っ暗闇、ひとりじゃ、夢でも怖すぎるよ。 遊太郎に会いたい…) すると、闇の一角が淡く薄れて、白い何かが見えた。 恐る恐る近寄ると、人の顔のようだ。 下を向いている端正な横顔に前髪がかかって、 目もとは見えなかったが、レンであることはすぐに分かった。 ( 遊太郎! ) 喜んで、さらに近づいた彼女は、ハッとして怯んだ。 彼の全身が、何か得体の知れない黒いものに縛り付けられていたからだ。 両側には、彼の手首から下がだらりと落ちている。 まるで黒い十字架に貼り付けにされているようだ。 ( ねえ、どうしたの? 何でこんなことになってるの? 遊太郎! ) 問いかけてみたが、深く俯いたレンに反応はない。 よく観察すると、彼の喉元まで黒い何かが覆っていて、 生き物のようにぞろぞろと蠢いて、無数の蛇に見えた。 脚が震える。怖い。 こんな気味悪いものは見たことがない。 絶対、普通の蛇じゃない。 でも、絡みついた蛇のようなものを引き剥がさないと、 彼が、どんどん生気を吸い取られてしまうと思った。 どうしよう… 桃子は、悪夢のような想念世界の中で途方に暮れた。 同じ時。 月の裏側にある銀河連盟ステーションのゲストルームに、 ロータスが訪れていた。 彼の足音を聞いたソリュート王は、 額に押し付けていた手を外した。 「…レンは、どうなのだ?」 「人並みに、心配ですか」 温厚な人柄のロータスには珍しく、皮肉をさらりと口にする。 それでも、憔悴した王の様子を見て取り、 少し労るように付け加えた。 「レンの全身に及んでいた、隕石の放射線や有害波動は除去しました。 まだ深い昏睡状態ですが、さっき個人ケアブースに移したところです。 お会いになりますか?」 「……」 ソリュート王は、重い表情のまま、黙って立ち上がった。 ~第179回へ続く~ |
by yu-kawahara115
| 2009-06-24 23:48
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