第172回接近遭遇「世にも奇妙な乾杯」 |
~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~ ★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 超童顔メガネのおっとりした新人営業マンは仮の顔。 その正体はプラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ (どうしてこうなるの?誰か説明してよ) と、桃子は歩きながら口の中でブツブツと文句を並べていた。 自慢じゃないけど、 あたしは庶民の家庭に生まれた思い切り庶民の娘で、 美人でも可愛くもない平凡な顔だし、 おおざっぱな性格の普通のOL。 宇宙人やUFOなんて、ぜんっぜん興味無しなリアリティ重視の人間だよ? そんなあたしが、 異星人の男とルームシェアをする羽目になり、 なんというか、まあ、好きになっちゃって。 いま、地球に着いたばかりだという彼の強面の父親と、 並んで街の中を歩いているなんで。 普通、こんなの絶対ありえないじゃん。 「私と逢っているのが、不服のようだな」 前方を向いたまま、ソリュート王が桃子に言った。 この貫禄ある北欧系外国人に見える男は、 遊太郎、つまりレンの父親である。 お互い自動翻訳機を耳に付けさせられているので、 会話は嫌というほどスムーズだった。 「いえ。別に」 「嘘をつくな。怒った顔をしているではないか」 「生まれつき、こんな顔なんです」 この2人の会話をハラハラしながら聞いているのは、 後ろから付き従う執事ラグローシュだ。 先刻ソリュート王より、外を散歩したいと言われ、 ロールスロイスを降り、人がやけに多い土曜日の大通りを、 なんと3人で散策する事になったのだ。 「ねえ。おじさん」 桃子は、天下の王をそう呼んだ。 相手が王様だろうが大統領だろうが関係ないらしい。 「せっかくはるばる地球まで来たのに、 おじさんが勘当した息子さんに会わなくて良いんですか?」 土壇場になると肝が据わってしまうようで、 彼女は思い切って核心をついた質問をしてみた。 しかしソリュート王は相変わらず無表情のまま、 全く違う事を口にする。 「おそろしく雑然とした街だ。有害で原始的な乗り物が多すぎる」 どうやら、この王様は歯に衣を着せぬタイプのようだ。 「よくこのような汚い星に住んでいられるものだ。信じられん」 「遊太郎、…いえ。息子さんのことを言ってるんですか? 故郷へ帰らないから、 地球が、どんな星なのか見極めに来たってわけなんですね」 ますますストレートな桃子の物言いに、王は険しい顔をしながら、 「地球に来たのは、庶民の暮らしぶりを見たかったのだ」 と、はぐらかし、地味に控えている執事に命じた。 「ラグローシュ。喉が乾いた。休息場所を探せ」 「かしこまりました。陛下」 そこへ桃子が口を挟んだ。 「あたしが、適当なお店へ案内しましょうか。 庶民の味を体験できますよ?」 「桃子様…」 執事が青くなるが、お構いなしだ。 「ここは任せてください。ラグローシュさん」 そう言うと、付いて来いとばかりに、 ずんずんと大股で先頭を歩き出す。 ソリュート王はラグローシュだけに聞こえるよう母星語でつぶやいた。 「…全く、なんという無礼な娘だ」 「は、はあ」 「あのような下品な娘を、レンは好んでいるというのか」 やはり、息子の恋人を品定めに来たらしい。 ソリュート王は彼女の後ろ姿を厳しい視線で睨みつけた。 桃子が異星人たちを案内した店は、友人とよく行く馴染みの居酒屋である。 「桃子ちゃん。いらっしゃい」 明るく声をかけた店長は、桃子の連れを見て目を丸くした。 彼女は、わざとこう紹介する。 「彼氏のお父さんと、執事さんです」 「へ、へえ。そりゃサービスしなきゃねえ」 バイト店員に、囲炉裏のある奥の席へ連れて行かれ、 ソリュート王は苦虫をかみつぶしたような顔をしたが、 ラグローシュの拝むような表情をチラリと見て、 仕方なく狭い席に押し込めた。 「生ビールを、みっつ下さい」 指を3本立てた桃子へ、店員たちが威勢良く応え、 すぐに冷えた大ジョッキが3人の前に並んだ。 桃子は腹をくくった。 レンから、この父親には絶対逢うなと注意されている。 しかし出くわしてしまった以上、なんとか乗り切るしかないのだ。 ここは、この王様を酔わせてしまって、 胸の内を聞き出してみようか。 そう企んだ彼女は、満面の笑みを作り、大ジョッキをつかんだ。 「世にも奇妙な飲み会に、乾杯!」 ~第173回をお楽しみに♪~ |
by yu-kawahara115
| 2009-05-27 21:23
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