第273回接近遭遇「宇宙人とのラブラブは障害だらけ」 |
〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜 ★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。 おっとりした新人営業マンだが、 その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「桃子さん。レン王子様を好きなら、彼を手放してくださいません?」 花嫁候補だという宇宙人美女エリカのセリフに、 桃子は一瞬固まってしまった。 しかしこんなところで黙ってしまう性格ではないので、 ハッキリ言い返した。 「あのさ、手放すってなに? 遊太郎はあんたの所有物じゃないでしょ?」 「はい?」 桃子のような人種に慣れていないお嬢様が一瞬ひるむ。 かまうもんか。 いかにも相手は上品な風情だが、失礼にもほどがある。 売られたケンカは買ってやらなければ。 「エリカさんとやら。花嫁候補が何サマか知らないけど、 あたしを品定めする為に上がり込むなんて超失礼じゃん。 それにさ、遊太郎がソリュート星に帰らないで、 派遣調査員の仕事を続けてるのだって、本人の意志でしょう。 あたしが束縛してるわけじゃない。 あいつはね、どんなにきつくたって、地球にいたいから居るんだよ。 そんな相手の気持ちもわからないで、花嫁候補なの? さあ。あたしが、どんなひどい女かわかったんなら、 さっさと自分の星に帰れば?」 お帰りはあっちと、玄関の方を指差すと、 エリカは信じられないといった半泣きの顔で飛び出した。 驚いてあとを追おうとした兄のサーフィスだが、 クルリと桃子に向き直ってこう言った。 「ボクの可愛い大切な妹を泣かせたね」 「謝らないわよ、あたし」 「だろうね」 「え?」 てっきり、彼独特の嫌みを言われるかと思い込んでいた桃子は、 サーフィスがニヤリと笑うのを見て調子が狂った。 彼は腕組みをして得意げに説明する。 「実はね。君たちの関係がなかなかラブラブにならないから、 ちょっとイタズラしたかったんだよ」 「ラブラブって」 よくそんな日本語を知っているものだ。 呆れ半分に感心していると、彼がふっと真顔でささやいた。 「妹には悪いけど、花嫁候補が何人いても、 桃子さんは折れないのはわかっていたしね。 でも、勝負はこれからだから。覚悟しておいたほうがいいよ」 「勝負?」 「君たちのラブラブは、まだまだ障害だらけだってことさ。 では、地球のレディ。ごきげんよう」 サーフィスはウィンクを返して、 ヒラヒラと手を振りながら帰ってしまった。 何しに来たんだ?あのセレブ宇宙人。 いつも他人の都合などお構いなしに訪問するので、 桃子はぶつぶつ文句をこぼしながら、 飲まれなかった紅茶のカップを片付け始めた。 はあ、とため息をついて昼前なのに缶ビールを開ける。 ソファにどっかり座り込むと、なんとなく落ち着いて来た。 きっとサーフィスは遊太郎の自称親友だから、 彼なりに心配はしてるのだろう。 遊太郎が、地球人のフリをして生活する様子に心配し、 ややこしい事情がたくさんあるらしい遊太郎の母星のことや、 いっこうに進展しない遊太郎と桃子の関係も、 多少じれったいと考えているのかもしれない。 「ラブラブか」 彼らが訪問する前まで、 遊太郎に結婚しようとプロポーズしてみたらどうだろう?と、 珍しく浮ついた気分を楽しんでいたのに、見事にふっ飛んでしまった。 サーフィスが釘を差したように、 自分たちの間には障害というより、 普通のカップルでは考えなくても良いハードルがあると思う。 地球人の桃子が愛する彼は、宇宙人のレンだから。 もちろん、イトコの森田遊太郎のDNAをコピーして、 戸籍上も地球人だから、表向きな結婚には問題ない。 両親も最初はイトコ同士だからと反対したが、 いまは応援してくれて、どちらかというと桃子より、その気である。 しかし、遊太郎は前にこう言った。 「僕は誰とも、そうはなりません」 つまり、結婚とか深く誰かと交流することを、 出来るだけ避けたいスタンスでいるらしい。 桃子は携帯電話を取り出し、 メールも寄越さない遊太郎のアドレスをむっつりといつまでも眺めていた。 〜第274回をお楽しみに♪〜 |
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by yu-kawahara115
| 2010-08-08 12:48
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第272回接近遭遇「ライバルとのベタな展開」 |
〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜 ★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。 おっとりした新人営業マンだが、 その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ マンションに訪れた外国人風美女は、 眩しい金色の長い髪、ガラス玉のようなグリーンアイの若い女だった。 「やあ、桃子さん。彼女はエリカ。ボクの自慢の妹さ」 勝手にリビングに上がりこんだサーフィスが、 美女の傍らで得意げに紹介するので、 紅茶を淹れながら、桃子はああと納得した。 確かに彼女はどことなく雰囲気が似ていて、 2人が座っているだけで、場違いな華やかさが演出される。 「遊太郎なら、残念ながら仕事でいないけど?」 つい仏頂面を向けてしまうと、エリカが桃子に微笑んだ。 いかにも愛想笑いといった感じで。 「わたくし、ずっと桃子さんに会いたくて、 無理を言って兄に連れて来てもらったんですわ」 お嬢様は、なかなか流暢な日本語を操った。 「あたしに会いたかった?」 なんとなく嫌な予感はしたものの、深刻ぶるのは避けたいので、 桃子はことさらトボケたように訊いた。 すると、人形のように取り澄ましたエリカは、 桃子を上から下までじっくりと観察し、安心したかのようにつぶやいた。 「良かった」 「何が?」 「レン王子様がなかなか地球から帰らないので、 同居なさっている桃子さんという方が、 どんなに素敵な女性なのだろうと胸がつぶれそうに悩んだんです。 でも、あなたをひと目見て、すごく安心しました」 それはどういう意味だ? 口をパクパクさせていると、セレブな兄はこう言った。 「エリカはね、レンの花嫁候補の1人なんだよ」 「えっ?」 遊太郎の花嫁候補? 桃子の苦いものを呑み込んだような表情を見て、 サーフィスは妙なフォローをした。 「大丈夫だよ。地球の日本と違ってわがソリュート星は、 望むだけ花嫁を迎えることが出来る。 だから、桃子さんが対象にならないとは限らない。 まあ、周りが認めたらの話だけどね」 「はあ?」 桃子はサーフィスを恐ろしい目で睨みつけたが、 空気を読まない彼は気にする風でもなく、エリカに優しく言った。 「さあ、これで気は済んだだろう? レンは、可愛いエリカだけを愛するようになる。 何も心配しなくて良いんだよ」 「ええ。お兄様。わたくしも自信を取り戻しました。 レン王子様は、地球人女性が単に珍しいだけなのかもしれないと」 「ははは。確かに桃子さんは飽きないからね」 ……ちょっと待て。 桃子は紅茶のポットを2人にぶちまけたかったが、 地球人は乱暴だと思われたくなかったので、 歯を噛みしめて低い声で話した。 「前から花嫁候補なんて制度があるって聞いてたから、 別にいまさら驚かないけど。 本人の遊太郎がその気がなきゃ、 何人の花嫁候補がいようが関係ないんじゃない? 母星なんかに帰らないって言ってたし」 一瞬しんとした。 人形じみたエリカの表情がわずかに固くなったが、 サーフィスが人差し指を振って冗談を言うように否定した。 「いや。レンは、きっとソリュート星に帰る。 派遣調査員なんて地味で苦労ばかりの仕事に、 疲れ果ててるからね」 「疲れ果ててる?」 「ずいぶんムリをしているじゃないか。 これほど汚れた惑星だ。 ボクたちが旅行に来るのも危険なのに、 地球人の肉体を纏い、生活するなんて拷問以外の何ものでもないさ。 なのに、君はそばにレンを置いて、わがまま放題して来た。 彼を束縛してるようなもんだよね?」 「束縛……」 すぐに言い返す言葉が見からなかった。 確かに遊太郎は、故郷と環境の違い過ぎる地球で、 ろくに休まずに不法侵入者を取り締まってる。 さらに、桃子が怒っても文句ひとつ言わず、 黙々と家事もこなしているし、 地球人サラリーマンとしての仕事も力を抜かないのだ。 疲れないはずはない。 縛りつけていると言われたら、胸が痛む。 黙ってしまった桃子へ、エリカが慈悲深く微笑んだ。 「桃子さん、レン王子様を好きなら、彼を手放してくださいません?」 〜第273回をお楽しみに♪〜 |
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by yu-kawahara115
| 2010-08-03 22:15
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第271回接近遭遇「結婚しようよ」 |
〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜 ★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。 おっとりした新人営業マンだが、 その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「結婚しようよ。遊太郎」 桃子は遊太郎が帰宅するのを待ってプロポーズをした。 思いきって口にした時、彼女の心臓はばくばくと波打った。 遊太郎はキョトンとした顔で、 意味を探すように彼女を見つめていたが、 やがて、にっこりして答えた。 「いいですよ。結婚しましょう。桃子さん」 「ホント?やった!でも知ってる? 普通プロポーズって男子からするもんだよ」 「そうなんですか」 「でも、待ちきれなくて先にあたしが言っちゃったから、いい。 でも指輪は、ちょうだいね」 「指輪、ですか?」 「やっぱ知らないんだ。 地球じゃあ、エンゲージリングっていっていうのがあるわけ」 「それは勉強不足でした。すぐに用意します」 遊太郎は鞄を手にして出て行こうとするので、 そんなに急がなくてもと桃子は苦笑し、遊太郎にしがみついた。 「一緒に選んで。指輪」 「はい」 甘い甘いキス。 桃子は有頂天になり、遊太郎を痛いほど抱き締めた。 幸せの絶頂だった。 次の瞬間、床に転がり落るまでは。 「っててて……」 桃子は枕を抱き締めて、ベッドから落ちたのだ。 なんだ、夢か。 すごくいいとこだったのに。 激しい落胆とぶつけた額の痛さで顔をしかめる。 時計を見ると日曜日の昼前だった。 リビングに行くと、朝食がきちんとテーブルに並べられ、 遊太郎は出かけたあとだった。 よく寝ている桃子を起こさず、そうっと仕事に出たのだろう。 もちろん日曜日なので、仕事というのは彼の本業の方だが。 「現実だったら、今頃は遊太郎とリングを買いに出かけていたのに」 パジャマのまま、ソファにどっかり腰を下ろし、 桃子はいま見た楽しい夢をしばらく反芻し、ニヤニヤした。 そうだ。正夢にすればいい。 のんびりした遊太郎からプロポーズを待ったって、 いつになるやら見当もつかない。 それに仕事一筋の彼のボキャブラリーには、 プロポーズとかないんじゃないだろうか。 ここは、年上の自分がしっかりリードするべきだろう。 そうと決まったら、やることは情報収集だ。 朝食を食べたらパソコンで結婚情報をチェックしてみよう。 もう結婚している友人に連絡を取って話を聞いてみるのもいいかも。 オレンジジュースをごくごくと飲み、野菜のサンドイッチを食べながら、 桃子はふと思った。 神崎部長に相談してみようか。 なんといっても、表でも裏でも、 遊太郎をよく知る上司なのだから。 それに時々遊びに来るカミラにも相談しよう。 女同士だし、いちおう彼の幼なじみ。 結婚するにはどうすればいいか。知恵を借りるのだ。 ひとり舞い上がっているとインターホンが鳴り響いた。 宅急便かな? まさか本当にカミラの訪問か。 急いでルームウェアに着替え、髪を束ねた桃子は、 玄関の向こうに立つ見知らぬ訪問客にギョッとした。 にこりともしない外国人風美女。 その横には遊太郎の親友だというサーフィス。 この男、今度は一体誰を連れて来たわけ? 追い返そうと思ったが、騒ぎになると他の住人に見咎められてしまう。 用件だけ聞いたら、遊太郎は留守だと言って早々に帰って貰おう。 「どうぞ」 桃子は仏頂面をなんとか引っ込めて、 場違いに華やかな訪問客たちを部屋の中に入れた。 〜第272回をお楽しみに♪〜 ↑ 少し内容を訂正させていただきました。 |
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by yu-kawahara115
| 2010-07-25 13:45
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第270回接近遭遇「彼氏に料理を教わる彼女」 |
〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜 ★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。 おっとりした新人営業マンだが、 その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 翌日の土曜日。 遊太郎と桃子は近所のホームセンターに行った。 桃子の世にも破壊的な料理で、 フライパンや片手鍋が使いものにならなくなった為だ。 桃子はいつになく上機嫌で物色し始めた。 何故なら、お互いスレ違い生活が続いていたし、 これからは遊太郎が桃子に調理を教えるという。 それは必然的に2人きりの時間が作られるという事で、 桃子は素直に嬉しかった。 もちろん調理器具を駄目にしたのは、 そんな下心があったからではなかったのだが。 「これなら、桃子さんでも使いやすいですね」 キッチンフロアで、遊太郎はシンプルで丈夫な片手鍋とフライパン、 菜箸やフライ返しなどを選んだ。 桃子が無邪気に口を挟む。 「ねえ、どうせなからペアでトレーとかそろえない?」 「桃子さんのだけでいいと思います」 「え、なんでよ?遊太郎のは?」 「僕はあまり食べないし、もったいないですよ」 遊太郎は無駄遣いはしないタイプだ。 どんぶり勘定の桃子とは対照的なので、もったいないと言われて彼女はちょっとむくれた。 確かに、遊太郎は作るだけで食事はあまりしない。 昼間はサラリーマンとして怪しまれないように、 外回り先で誰かと食べているようだが、 1日一回の食事だけで24時間フルで動けるものだろうか。 遊太郎の正体が地球人でないのはわかっていても、 桃子にはほんの少し不満だった。 お揃いの食器を2人で選び、毎日一緒に食事をしたかった。 マンションに帰り、 早速簡単なものから挑戦することになった桃子は豪語した。 「オムライスぐらいなら、あたしにだって出来るわよ」 しかし卵の割り方ひとつから基礎が出来ていなくて、 遊太郎にやんわり指摘された。 「桃子さん。卵は力まかせだと殻が中に入りやすいですよ」 「割ればいいんでしょ。割れば」 ガンガン割ろうとする桃子の腕を遊太郎が軽く掴んだ。 「素材は丁寧に扱うと、美味しく出来上がるんですよ」 「悪かったわね。耳に痛いんだけど?どうせ、あたしはガサツよ」 「じゃあ、ちょっと見ててくださいね」 そう言った遊太郎は、器用に片手で卵を割り始めた。 感心して真似したが、これはコツを掴むまでしばらく練習が必要だと痛感した。 彼は続いてキャベツの千切りを教えた。 桃子の切ったキャベツは厚さが1センチ近くあり、 とても千切りには程遠い。 「キャベツなんて添え物じゃん。 テキトーに切って並べりゃいいんじゃないの?」 面倒くさいと文句を言い出す桃子に、遊太郎は少し考えていたが、 スッと彼女の背後に回り、包丁を持つ手に自分のそれを添えた。 一瞬、桃子はドキッとした。 「感覚を覚えれば、桃子さんなら上手に出来ますよ」 遊太郎はさりげなくフォローをしながら、 一緒に包丁を動かしてくれた。 遊太郎の体温を全身に感じる。 桃子は黙って従いながら、 料理が上手な女性になりたいと思い始めた。 そうしたら、遊太郎は喜んでくれるかもしれないし、 もしかしたら、お嫁さんに…… ふと、桃子は戸惑った。 自分はいま何を考えていたのだろう。 思わず手の動きが止まって、遊太郎が驚いたように訊いた。 「疲れましたか?桃子さん」 「あ。ううん。大丈夫」 桃子はぎこちなく答え、再び一生懸命キャベツを切る練習に集中した。 最初と違っていくらか細かく切れていき、達成感が味わえた。 そうか。 あたし、やっぱり本音は遊太郎のお嫁さんになりたいんだ。 ずっと、ずっと一緒に暮らしたい。 遊太郎に調理を教えてもらう、穏やかな時間の中で、 桃子は遊太郎との結婚したいという想いが、 どんどん高まっていくのを感じていた。 〜第271回をお楽しみに♪〜 |
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by yu-kawahara115
| 2010-07-18 14:33
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第269回接近遭遇「桃子のクッキングは破壊的」 |
〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜 ★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。 おっとりした新人営業マンだが、 その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 侵入者を確保したのち、 遊太郎は銀河連盟パトロール隊員に引き渡し、 遊太郎と薬師丸は禁止区域の小学校を離れた。 表通りをかなり歩いたところで、薬師丸は意を決したように口を開いた。 「……あの、森田さん」 「はい」 「昼間、派遣調査員をやる自信がないって、 僕、こぼしてしまいましたが」 「ええ」 「その。……もう少しだけ考えてみようかと思い始めています」 「薬師丸さん……」 遊太郎の安堵したような表情に、 薬師丸は多少赤くなり、急いで付け加えた。 「別に、あなたの仕事のやり方が好きになったわけじゃありませんよ。 逃げる気だと思われたくないだけです。 いまの現実に向き合う勇気は大切ですから」 現実から逃げても、自分からは逃げられない。 先刻、遊太郎が侵入者に言った言葉が、薬師丸の誇りを呼び戻したようだ。 素直に認めたくなくて憎まれ口を叩く彼を、 遊太郎は好ましく感じた。 「薬師丸さんなら、きっと良い派遣調査員になれると思います」 「お世辞はいいです」 ちょっと鼻じらむ薬師丸へ、 遊太郎は少しだけ声のトーンを落とした。 まるで独り言のように。 「……僕も、自分から逃げたいといつも思ってます」 「え?」 「でも、結局逃げられない。 さっきの侵入者に、偉そうな事をいう資格なんて、 本当は、僕にはありません」 「森田さん?」 怪訝そうな顔をする薬師丸だったが、遊太郎はいつものふんわりした表情に戻った。 「何でもないです。会社に帰りましょうか。 そろそろ高山係長も帰社されている時間ですから」 既に陽が傾きかけていた。 淡いオレンジ色に染まってゆく街を、 遊太郎と薬師丸は肩を並べて歩いて行った。 その夕刻。 マンションに帰った遊太郎は、 ドアの外まで漂っている異様な匂いに気づき、 靴もそこそこに脱ぎ捨て、慌ててキッチンへ走り込んだ。 「桃子さん?」 「来たらコロスからね。遊太郎」 振り返りもせず物騒なセリフを吐いた桃子は、 キッチンで何かを必死に作っていた。 来るなと言われても、 遊太郎は彼女の背後に立って、 その惨状に目を大きく見開いてしまう。 「もうっ!来ちゃダメって言ったじゃん」 思いきりむくれる桃子に構わず、 遊太郎はスーツの上着を脱ぎ、シャツの袖を捲り上げ、 穴が開いた鍋や炭のようなフライパンに手を伸ばした。 「いったい何を作ろうとしてたんですか?桃子さん」 「肉焼いて煮物に挑戦しただけ。 ふん。あたしだって料理くらいしたくなるんだからね」 貸してよ、とフライパンを取り返そうとする桃子だが、 ひどい焦げ付きは自分の手に負えないと感じているのか、 「僕に任せてください。桃子さんはソファで休んで」 と遊太郎に言われてしまうと、ふてくされてキッチンから離れ、 リビングにあるオレンジ色のソファにどっかり座り込んだ。 「あ〜あ。電子レンジとかインスタントラーメンなら簡単なのに」 「インスタントは体に良くないですよ」 「だってさあ、煮たり焼いたりすんの難しいんだもん」 「だから、食事は今まで通り僕が作りますから、 桃子さんは何も心配しなくて良いんです」 「それが、ヤなの。あたしは」 彼女は腕を組んで立ち上がった。 「あんたが家事をやってくれてるのは助かるよ? けどさ。このままじゃ、あたし、な〜んにも出来ない女になりそうで、 すっごく焦ったりするわけよ。わかる?26の女のプライド」 「はあ」 キッチンの掃除をしながら遊太郎は考えた。 正直なところ、桃子の調理は破壊的だ。 調理器具が全部使いものにならなくなる上に、 そのうちに火事かと勘違いされ、 マンションの他の住人から通報をされ兼ねない。 「教えます」 「へ?」 「僕が桃子さんに少しずつ調理を教えますから」 クッキングコーチを宣言する遊太郎に、桃子の顔が柔らかくふくらんだ。 「うん!」 〜第270回をお楽しみに♪〜 |
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by yu-kawahara115
| 2010-07-11 12:48
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