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ようこそ、川原 祐です♪
by yu-kawahara115
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<   2009年 03月 ( 9 )   > この月の画像一覧

第157回接近遭遇「2人の距離感」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「遊太郎……!」

桃子は信じられないような表情で、現れたレンを見た。
涼しげなプラチナの髪が揺れて、
瞳の色を隠すように漆黒のサングラスをしている。
スレンダーな身体をしていながら、
彼は一瞬で数人のタイタン星人をなぎ倒したのだ。
すぐに銀河連盟パトロール隊員が動けない侵入者達を確保する。

「遊太郎。あたしの友達が…」
桃子はショックで気絶してしまった清美に駆け寄った。
するとレンは黙って頷き、パトロール隊員の1人にサインを送った。
そして桃子に低い声で言う。
「彼女は安全な場所へ送り届ける。心配しなくていい」
「ありがとう」
「君もだ」

君…。
名前を呼んでくれないんだ。やっぱり。
桃子は少しばかり落胆した。
彼が助けに来てくれたのは、
自分の事を思い出してくれたからだと少し期待していたのに。
実際は、彼女が付けていたピアス型発信機に反応しただけのようだ。

清美がパトロール隊員に保護されて、
その場にレンと桃子だけになったあと、
耳障りな奇声と共に、
再びタイタン星人が薄ら笑いを浮かべながら湧いて出て来た。

「おんな」
「逃げたおんな」
「つかまえる」

知能は恐竜並みだが、獲物には異常なほど執念があり、
桃子を諦めてはいないようだ。
レンは銀河連盟パトロールに桃子を託すのを止めて、
怯える彼女の腕をつかんだ。

「来い」

タイタン星人を長い脚で蹴散らして、彼は桃子を連れて地上へ走り出た。
駅前広場では、パトロール隊員達が、
逃げ惑う人々を避難させ始めている。
そうしている間、タイタン星人が互いにぶつぶつと話し合っていた。

「あいつ、じゃま」
「ぎんがれんめい」
「いろおとこ」
「おんな、よこどり」
「ゆるせない」
「ぜんいんで、ふたり、つかまえる」

銀河連盟調査員に邪魔をされたという意識が、
凶暴な悪意となってタイタン星人の結束を高めたようだ。
レンと桃子は駅から離れ、車道を縫うように走り抜ける。
その2人を追う黒い集団。

走りながら、桃子は自分の腕をつかんでいる強い力に顔をしかめた。
つい声に出してしまう。
「痛い」
「?」
「ごめん。遊太郎。ちょっと痛いんだけど…」
彼女の懇願に、彼はわずかに力を緩めた。
少し戸惑いが伝わる。
以前のレンなら、桃子には努めて優しく触れていたものだが、
いまの彼には、恋人である桃子の記憶が無い。
彼にとっては狙われた地球人の1人だから救う。
だから微妙な距離感があるのは、仕方がないのかもしれない。

荒らされた街を走るレンへ、
上司ロータスのテレパシーが飛び込んだ。
(レン。あまり派手にはやるな)
(分かっている)
(一体どうするつもりだ?)
(一ヶ所に引きつけて、ケリをつけるまでだ)

すると、ロータスの危惧が伝わって来た。
(効率はいいが、桃子君が一緒なら、危険なことはするな。
何度も言うが、ここは地球で、君の居た戦場ではない)

そんなことは百も承知だと、レンは眉を潜めた。
タイタン星人の標的にされている桃子を、
どこかに転送しても良かったが、何故か気にかかるので、
連れて来てしまっただけだ。

…気にかかる?
ふと、レンは不思議に思った。
五十嵐桃子という地球人女性が、自分にとって何なのか、
記憶が失せているいま、この気持ちが一体どこから来るのか…


やがて2人は、ひと気が少ない場所へ出た。
暗闇の中に校舎らしき建物が見える。
いきなり、レンは彼女を抱き上げ、
大胆にも門を飛び越えた。

「ゆ、遊太郎っ!なに考えてるのよ?おろしてよっ」
抱き上げられ、桃子は顔を赤くして抗議するが、
一向に下ろす気配はないらしい。
自分のすぐ近くにクールな彼の顔があるため、
桃子は胸がドキドキして来た。
以前の彼と違って、本当にやることが破天荒で強引だ。
ひょっとしたら、記憶喪失のいまの方が素に近いのだろうか?

「黙ってろ。舌を噛むぞ」

にべもなく命令したレンは跳躍を重ね、グラウンドの中央に着地した。
そこへ、タイタン星人達が黒い塊のように、
へらへらと笑いながら集結する。

「これで全員揃ったのか?」

レンは、ひどく事務的にそう質問した。


~第158回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2009-03-30 22:52

第156回接近遭遇「桃子、タイタン星人に襲われる」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

夜の街を、地球に無断侵入したタイタン星人が徘徊していた。
酒を飲んでいる者、
口笛を吹いて新聞紙を引き裂きながら歩いている者。
黒い肌に短い髪、ギョロリとした目は、
一見、黒人に似てはいるが、時々耳障りな奇声を発していた。

「ハラ、へった」
「へった」
「へった」
「へった」

彼らは匂いに釣られてコンビニに押し入り、
口笛一つでスナックを空中に浮遊させた。
飛び散るポテトチップス、シャワーのように噴出するコーラ。
悲鳴を上げるバイト店員や客を無視して、
彼らは貪りつくし、面白そうに雑誌を破り始める。
すぐに2人の警察官が駆けつけて来たが、
長い腕を伸ばして片手で持ち上げ、ボーリングをするように床へ転がした。

「おんな」
「もっと、おんな」
「もっと、さけ」
「さけ」
「おんな」

そのうち、コンビニに飽きた異形の集団は、
駅前通りに出て次の獲物を物色し始めた。

「パトカー?」
ちょうど駅前通りを清美と歩いていた桃子が、
怪訝な表情で辺りを見回した。
「最近物騒だから。さ、早くお店に入っちゃおう。桃子」
清美はそう言って駅前にオープンしたばかりで、
開店祝の花輪で目立つ洒落た店へ案内した。
桃子達がカウンターに座ると、さっそく知らない男たちが声をかける。
「君達、2人?」
「ちょうどいいじゃん。こっち来て一緒に飲もうよ」
清美は喜んでと誘いに乗り、桃子はまたかとげんなりしたが、
彼女が気晴らしに連れて来てくれたのだからと、愛想笑いを作った。

他愛もない会話に適当に相槌を打ちながら、
桃子は半ば物思いにふけっていた。
遊太郎は、あのまま記憶も戻らず自分から離れていくかもしれない。
場合によっては、今度こそ強制的に故郷の星へ連れ戻され、
二度と会えないかもしれないのだ。
そうすれば、おそらく遊太郎と過ごした日々の記憶も、
自分の中から消去されてしまうだろう…


長いことぼうっとしていたせいか、
周りの騒がしさに気づくのに時間がかかった。
「?」
異様な雰囲気の男達が店で暴れていたのだ。
黒い顔に爬虫類のような目玉を動かして、不気味この上なかった。

「ヤバいよ。逃げよう、桃子」
一緒に飲んでいたナンパ男2人でさえ怯えて逃げようとしていた。
清美も席を立ったが、
男の1人が彼女のバッグを引ったくった。
清美はギョッとして、バッグを取り戻そうと手を伸ばす。

「清美!」
桃子は反射的にカウンターのドリンクを、
手当たり次第浴びせかけた。
男がたまらず両手を離した隙に、桃子は清美の手を握った。

「逃げるよ、清美!」
「あたしのバッグが…」
「バカっ。早く!」

悲鳴と奇声が混じり合う店から、2人は必死な思いで脱出した。
しかし、桃子は目の端で見てしまった。
入口の花輪を信じられないくらい凶暴に引き裂き、
追いかけて来る男達を。


( 助けて、遊太郎……!)

心の中で、思わず遊太郎の名を呼ぶ。
ピアス型発信機がまだ作動しているなら、この思念は彼に届くはずだ。
しかし、と思う。
遊太郎には現在の記憶が無い。
自分の心の叫びに、果たして応えてくれるだろうか…?

通りは逃げ出す人々の悲鳴、車のけたたましいクラクション、
パトカーや救急車のサイレンが鳴り響き、
まるで悪夢の街に変貌していた。
這うように駅の構内に走り込んだ2人は、
地下鉄の階段を降りたところで、
なんと先回りされた彼らに待ち伏せされてしまった。

「おんな」
「にげた、おんな」
「つかまえる」

彼らは、へらへらと笑いながら構内の一角に2人を追い詰めてゆく。
清美は腰を抜かして座り込み失神してしまった。

…ああ。絶体絶命だ。


その時。
桃子に伸ばされようとした黒い腕を、背後から誰かがつかんだ。
「?」
ギョロリと目玉だけ動かした男は、次の瞬間、ぐるんと仰向けに回転し、
頭から逆さまに下に叩きつけられた。
驚く間もなく、他の男達も次々とひっくり返され、
耳障りな奇声だけが長く伸びた。
桃子は自分の目が信じられなかった。
すぐそばに、プラチナの髪をした見覚えのある青年が立っていたのだ。

「遊太郎…!」


~第157回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2009-03-26 22:24

第155回接近遭「迷路の出口を求めて」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「キャプテン・ロータス。侵入者です」

月の裏側にある銀河連盟ステーション。
そのコントロールセンターで、調査団スタッフが報告した。
ロータスが、まさかという顔をする。

「侵入エリアは、ひょっとして?」
「レンの管轄エリアですね」
「また寄りによって、こんな時に…」
「どうします?他のメンバーに調査させますか」
「相手レベルによるだろう。データをロードしてくれ」

乳白色の壁面がスクリーンに変わり、薄ら笑いを浮かべた男が映し出された。
黒い肌にギョロリとした目。地球の黒人種に見えなくもない。
「タイタン人か。
色々な惑星で悪さをすることで有名だな。
まさにレンが適任だが…」
しかし、そのレンは記憶を無くしている。
先日も、恋人の五十嵐桃子と会わせてみたが、
思い出す兆しが見られなかった。

考えあぐねていたところへ、
軽い電子音と共に長身の青年が入室して来た。
プラチナの髪に、ルビーのような瞳の男。
調査員のユニフォームともいうべき、全身黒の服を纏っている。

「タイタン人なら、他の星域で何度かやりあった事がある」
レンはスクリーンをチラッと見て、冷めたように言った。
それを聞いてロータスが冗談ではないと首を振る。
「君の戦闘経験は買いたいが。レン。
調査員としての記憶が無い人間を行かせられんのだよ」
「なぜ?捕まえればいいんだろう」
「地球は戦場ではないぞ」

あからさまに反対して、他メンバーのリストをチェックし始めた。
「我々は目立ってはいかんのだ。
地球人に悟られぬように誘導し、確保する。
それには地球に慣れた調査員でなくてはならん。
君はケアブースに戻りたまえ」
しかし、レンは気にもとめていないようで、さらりと言った。
「タイタン人を長く放置すると地球人を巻き込んで暴れる。
奴らは恐竜並みに知能が低いからだ」
「……」
「それにブースにいる間、履歴データやマニュアルは頭に入れてある」
「なに?」
ロータスは驚いて片方の眉を上げると、
レンは、目を伏せてつぶやいた。

「記憶が無いのを言い訳にして、自分の仕事を怠りたくはない」
「しかし…」
良い顔をしないロータスへ、彼はふっとテレパシーで伝えた。

( …彼女が、泣いていた)
彼女とは、五十嵐桃子のことらしい。
(何故、こんな気持ちになるのか分からない…)
( レン)
( 空白の自分を連れ戻す為に、いま逃げてはいけないんだ。俺は…)

しばらく間があって、ロータスが苦笑した。
やれやれと立ち上がり、レンに近づいて肩を叩く。
「了解した。では、具体的な作戦を立てよう」
成り行きを見守っていたスタッフ達もホッとした表情になる。
そんな彼らを尻目に咳払いしたロータスは、
茶目っ気を出して、わざと厳しく付け加えた。
「レン。いつも君に注意しているが、今回も言おう。
スタンドプレーは厳禁だぞ?」



また一週間が始まった。
しかし桃子は何をする気にもならなかった。
無気力に仕事を続けている日々だ。
遊太郎が部屋から居なくなって、
会社でも研修という名目で姿を見かけなくなると、
まるで、元々存在していなかったような気がする。

「あいつ、森田。いつまで研修なんだ。
イトコなら、なんか聞いてるだろ?」
イライラしながら高山が尋ねた。
仕事が溜まって遊びにも行けず、面白くないのだろう。
桃子が答えないでいると、清美がフォローした。
「あら。高山係長なら、2人分くらい営業成績を上げられるじゃないですか。
そうすれば斉藤課長から高く評価されちゃいますよ?」
「ま、まあな。当たり前だよ。
オレは、1人でも余裕でガンガンやれる男だからな」
すっかり乗せられた高山は意気揚々と自分のデスクへ戻って行った。

「ごめんね。清美」
桃子が謝ると、彼女はニヤッと笑ってピースサインを作った。
「平気平気。あんな文句ばっかの男。
それよりさ、桃子が元気ないのが心配だよ。
なんか悩んでるなら、相談に乗るけど?」
「ん。ありがと。別に何でもないんだ」
まさか、恋人が記憶喪失になってるなんて、
突飛過ぎて言えるはずもない。

「ね。飲みに行こ。桃子」
清美が有無を言わせぬ調子で、ウインクした。


~第156回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2009-03-22 12:05

第154回接近遭遇「辛すぎた再会」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

桃子は広い円形のガーデンで、
現在の記憶を失っているレンと再会していた。
彼の瞳はルビーのように赤く染まり、どこか突き放したような雰囲気に変わってしまっていた。

「俺が他人と暮らしていた…?」
彼は信じられないと、独り言のようにつぶやいた。
その言葉の意味が分からなくて、桃子は少し混乱してしまう。

…なに?
あたしなんかと暮らしてたのが信じられないってこと?
それとも、誰かと一緒に暮らす事が、
もともと好きじゃなかったって意味?

真意を推し量り兼ねていると、
事前に部長の神崎から注意された事を思い出した。
レンは銀河連盟調査員を志願する以前の、
宇宙を放浪していた頃に時間が戻っている。
だから、彼女が知る彼ではないのだと。


「ずっと1人だったから、
あたしと同居していた事が信じられないの?」
正直にそう言って、桃子は、しまったという風に口に手を当てた。
考えたまま、ついストレートに口にしてしまったからだ。
しかしレンは、気分を害した様子もなく、
冷めたような目で彼女を見返した。

「そうだ。だから、なぜ君と暮らしていたのか、分からない」
「……」

2人はしばらくの間黙っていた。
鳥がさえずり、植物たちが思い思いに生い茂る広いガーデンで、
時間が止まったような感覚があった。
レンはふと、彼女の耳に装着している銀色の小さな物に気がついた。

「これは…」
「え?発信機だよ」
桃子はいつも無意識に付けているピアスに指を添える。
「発信機?」
「遊太郎が、…っていうか。
あんたがあたしにプレゼントしてくれたものだよ。
忘れちゃってるかもしれないけど」
「なぜ、そんなものを?」
「あたしが危険な目に遭いそうな時には、すぐに駆けつけられるようにって」
「……」

レンの手が桃子の耳元に触れようとした。
間違いなく彼の優しい手と長い指だ。
桃子は祈るように目を閉じた。

…ああ。
思い出して、遊太郎。
あたしと暮らしていた毎日を思い出してよ。
色々あって、ケンカもしたけど楽しかったじゃない。

「…駄目だ」
少し苦しそうな声がしたので、桃子は目を開けた。
彼女に触れようとした手を、自分のこめかみに当てる。
「君には悪いが。思い出せない…」
「ご、ごめん」
桃子は少し慌てて、謝った。
「変なこと教えちゃったね。無理して思い出さなくていいよ」

もちろん、どんな小さなキッカケでも使いたい。
でも、焦って無理やり記憶を引っ張り出してはいけないんだ。
大変な事件があったあとで、彼が無事に生きてて、また会えた。
それだけで、いまはいいじゃない。
そう桃子は自分に言い聞かせた。
「あたし、もう行くね」
頑張って笑顔を作る。
これ以上そばにいたら、泣きそうだから…。

「急に会いに来てごめんね」
じゃあ、と言って手を振りながら、来た道を引き返した。

ガーデンからかなり離れたところで、
桃子の目から涙がポロポロと落ちた。
これでも自分なりに一生懸命頑張ったのだ。
桃子は泣きながら、とぼとぼと歩いた。


小さくなる桃子の後ろ姿を、レンは複雑な表情で見送っていた。
記憶を無くした自分にとっては、
初めて会った五十嵐桃子という地球人女性。
遠ざかる足音を聞きながら、
彼女が笑顔の裏で泣いているのを感じて胸が痛くなった。

「……なぜ」

なぜ、他人であり、しかも地球人が
自分の事を思ってくれているのか。
長く孤独な闇の世界に慣れていたレンには、
どう受け止めていいのかが分からなかった。
償いきれない罪を背負って故郷の星を捨てた自分には、
人を愛したり、愛される資格がないのに…



その夜。
マンションに帰って来た桃子を、カミラがマンションの前で待っていた。
胸にたくさんのお菓子を抱えている。
「モモコさん、お帰りなさい。お菓子パーティーしようね」
きっと元気づかせるつもりだったのだろう。
大きなブラウンの瞳を向け、
天真爛漫な笑顔を見せるカミラの存在に救われる思いだった。
桃子は彼女に飛びつき、子供のように泣いた。


~第155回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2009-03-18 22:52

第153回接近遭遇「変わり果てた恋人」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

週末の土曜日。
緊張した面持ちの桃子は、
以前訪ねたことがある天野クリニックに居た。
連れて来たのは部長の神崎である。

2日前の夜。
サーフィスやカミラから事実を打ち明けられ、
レンがいま記憶を喪失しているという事に衝撃を受けた彼女は、
すぐに神崎に電話をし、彼に会わせて欲しいと懇願したのだ。
かなり戸惑っていた神崎は、強い彼女の意志に負けて、
ここで会わせるという承諾をしたのである。


やがて待合室に、
白衣の天野律子が顔を見せ、桃子に微笑んだ。
「桃子さん。レンならガーデンに居るわ。
お邪魔はしないから、ごゆっくりね」
調子が狂うくらい深刻さのかけらもない律子に、神崎は咳払いをした。
そして桃子に向き直って言う。
「桃子君には辛い思いをさせるかもしれません。
それでも、本当に良いんですね?」
「はい」
桃子が深く頷くと、律子が陽気に口をはさむ。

「あら。桃子さんは強いですもの。大丈夫よ。ねえ?」
そして桃子の肩を両手でつかみ、優しく言った。
「レンは絶対にあなたのことを忘れていないわ。
表面上、記憶が消えているだけ。
すぐには無理かもしれないけれど、思い出せる日が来るから。
だから、いまは自分を信じるのよ。桃子さん」
「はい。ありがとうございます」
強く背中を押され、桃子は待合室を出てガーデンへ向かった。

彼女の姿が見えなくなったあと、神崎が溜めていた息を吐き出した。
「桃子君に根負けして、会わせることになってしまったが、
これで良かったのかどうか」
「本当にあなたは心配性ね。ロータス。
どうせ会わせなきゃいけないし、なるようにしかならないのよ。
それで、レンの方にはどんな風に言って、ここへ連れて来たの?」
「君が地球で生活していた同居人に会わせる、と」
「恋人とは言えなかったってことね」

「当然だ。桃子君と会っても都合良く思い出すとは思えない。
これは、ショック過ぎる再会になるだろうな」
「ショックを受けたとしても、会えないままの方が何倍も辛いものよ。
それに恋人同士には冒険が必要だわ」
神崎とは対照的に、律子はさらりと締めくくった。


建物からガーデンへ伸びた通路を通りながら、
桃子は不安と緊張感に押しつぶされそうだった。
信じたくはないが、やはり遊太郎が記憶喪失になっていることは、
間違いがなさそうだ。
自分を忘れてしまっている彼に、どう接したら良いのだろう…

円形の屋根の下に広がるガーデン。
そこに足を踏み入れた桃子は、
豊かな緑が生み出す空気を肺いっぱいに吸い込むと、ぐっと肝を据えた。
忘れられていてもいい。
きっと自分の力で思い出させてみせる。
もうそれしか道はないのだから。


ガーデンの奥に白い服の青年が見えた。
生い茂る植物の蔓に触れている。
桃子の足音に気がついて、彼は振り返った。

「!」

桃子は思わず息を呑んだ。
レンの瞳の色が赤く染まっていたからだ。
「遊太郎…!どうしたの、その目」
「……」

反応がない。
あまりの無表情に、桃子は凍りついてしまった。
そうだ、自分は彼にとって初対面も同然だったのだ。
遊太郎の名前を呼んでも無駄だったのに…

その時、レンの声が初めて漏れた。
「遊太郎。…それが俺の、地球での呼び名なのか?」
「え…」
桃子はビクッとなった。
変わっていたのは瞳の色だけではない。
口調も雰囲気も、どこか冷めたようなものがある。
それでも気力を振り絞って答えた。

「…そうよ。あたしは五十嵐桃子。あんたは森田遊太郎。
一年近く一緒に暮らしているのよ」
「一緒に?」
「そう。思い出せない?」
「……」

ルビーのように赤い瞳がじっと桃子を見つめている。
窓から差し込む陽の光が当たると、透けたような色になり、
哀しそうにも見えた。

「悪いが…」
と、レンは桃子から、スッと視線をはずした。
「何も思い出せない。
と、いうより。信じられない」
「信じられない?」

「この俺が、他人と一緒に暮らしていたという事だ」


~第154回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2009-03-15 18:35

第152回接近遭遇「ショッキングな事実」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人。

★五十嵐桃子(26)★
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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

その夜。
桃子のマンションをカミラと共に訪ねたサーフィスは、
憔悴した様子で打ち明けた。
「ボクが地球に来た本当の目的は、
レンをソリュート星に連れ戻すことだったんだ」
「遊太郎を連れ戻す……?」

桃子が怪訝な顔で聞き返したので、彼はカミラの方をチラッと見た。
その視線を受けて、彼女は桃子に柔らかく話す。
「あのね。モモコさんには知らせてなかったみたいだけど。
レン、お父様からソリュート星に帰るように言われてたの」
「え…?」
するとサーフィスが言いにくそうに補足した。
「帰還命令だ。
ソリュート陛下の命令は絶対なのに、レンは従わなかった」
「そんな…」

初めて聞く話だった。
この数日間、確かに遊太郎の様子がおかしいと思った。
でも大したことはないからと何も話してくれない。
きっと不安にさせると思って黙っていたのだろう。

サーフィスが続ける。
「ボクと一緒に地球に来たランドエル博士も、
秘密裏にソリュート陛下の命令で動いていたようだ。
偵察機を配し、君の周りも監視していたんだよ」
「監視?」
「そう。それに君の会社のホストコンピュータに侵入して、
怪文書を一斉に配信したのもランドエル博士だ。
心理的にレンを孤立させたかったみたいだね」
「酷い…」
桃子は唇を噛み締める。
だから、遊太郎は部屋を出たのだ。
これで納得がいく。

「それにしてもボクは大馬鹿者だ。
そのランドエルにまんまと洗脳され、
危険な隕石を武器に、レンを追い詰めてしまったんだから」
「隕石って」
「数年前、ソリュート星に激突しかけて、爆発させられた隕石だ。
ランドエルは、その時の破片をこっそり持って来ていたらしい」
サーフィスは、その隕石事故について詳しく説明したくなさそうだったが、
桃子には分かった。
遊太郎の心の中で、ずっと重い足枷となっているはずの、
あの悲惨な事故に違いない。

「ランドエルの思惑通り、
特殊能力者のレンは隕石の力に感応した。
石は有害なマイナス波動を撒き散らし、彼はまともにそれを浴びたんだ」
サーフィスは、その時の様子を思い出して、
思わず桃子から視線を逸らし、うなだれた。

「奴に操られていたからって、
ボクは親友に、何て残酷な事をしてしまったんだろう。
あんなに、レンを苦しませて、動けなくして…」
「……」
桃子は拳を白くなるまで握りしめた。
心臓が爆発しそうになる。

「…彼はね、洗脳しているボクを救おうと、残りのパワーを使ってくれたんだ。
でも、ボクの覚醒と引き換えに、力を使い果たしたレンは…」
「もういい…!」
思わず叫んだ桃子に、サーフィスとカミラは黙り込んだ。
これ以上聞いたら、どうにかなりそうだ。
もちろん操作されたというサーフィスに罪はない。
けれど、きっと深く深く恨んでしまう。


「それで。…遊太郎はどこにいるの。大丈夫なんだよね」
有無を言わさぬ桃子の視線に耐えかねて、
サーフィスはカミラに助けを求めるように見た。
カミラは、もう隠しておけるものではないという風に彼へ頷く。


「レンは記憶を…」
「え?」
「いまの記憶を無くしているらしいんだ。
銀河連盟調査員になって地球に派遣されていることも、
そして、たぶん君のことも忘れている…」
「!」


部屋中の空気が凍りついた。
カミラが桃子の肩をそっと抱こうとするが、
彼女は振り払って立ち上がり、叫んだ。

「嘘だよ!そんなの」
「モモコさん、落ち着いて」
「遊太郎が、あたしのことを忘れるなんて、ありえない。
いい加減なこと言わないで!」

冗談じゃない。
遊太郎が自分のことを忘れるなんて、絶対に信じられない。
遊太郎に会おう。
そう桃子は強く思った。会って確かめなければ。

テーブルから携帯電話をつかんだ桃子は、
すぐに部長の神崎のホットラインへ電話を架けた。


~第153回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2009-03-12 22:37

第152回接近遭遇「無くした記憶」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人。

★五十嵐桃子(26)★

遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「レンは部分的な記憶喪失のようね」

そう言ったのは、天野律子である。
天才的なヒーラーであり、女医でもある彼女は、
知らせを聞いて銀河連盟ステーションを訪れていた。

流線型デスクで手を組み合わせ、ロータスは天野律子に言う。
「おそらく、あの隕石から放射される強力なマイナス波動に、
精神を取り込まれまいとして、自分を防御したのではないかと思う」
「その代わりに記憶が消えたと?」
「一時的だと思いたいがね」

危機を脱したかに見えたレンの中で、現在の記憶が消えていたのだ。
つまり、銀河連盟調査員になる以前に時間が戻ってしまっている。
故郷のソリュート星を捨てて、宇宙を放浪していた頃に。

「さっきチラッとレンを見たけれど」
美女は余裕たっぷりに微笑した。
「もとの彼より雰囲気がワイルドで素敵じゃない?」
「ドクター・律子、これは深刻な事態なのだがね」
呆れる彼へ、彼女は余裕たっぷりに返した。

「あら。弱気ね。要は記憶が戻れば良いんでしょ?
だったら、あんな個人用ケアブースに閉じ込めておかないで、
桃子さんに会わせれば良いのよ」
「誰に会わせるって?」
ロータスは驚いた顔を見せた。
全くこの女医は、いつもとんでもない事を口にする。

「桃子君に会わせるというのかね?無茶なことを平気で君は…」
「最愛の恋人に会わせるのは、効果の高い治療法の一つだわ」
「しかし、彼女のショックを考えてみて欲しい。
相当、傷つくのは目に見えている。
レン自身にも混乱を招いて、どうなるかわからん」
「あなたって、相変わらず過保護なのね」
天野律子はバッサリ斬って捨てた。
ヒーラーの割に、男顔負けに度胸が座っているのだ。

「いつ記憶が戻るかわからないのなら、そう長くは隠しておけないわよ。
彼女なら、彼に会わせて欲しいって言うわ。きっと」
「……」

ロータスは黙り込んだ。
あらゆる方法を試してはいた。
しかし古典的とも言える催眠療法も効果があがらないのだ。
記憶を喪失したままのレンを、
五十嵐桃子に会わせても良いのだろうか。
ロータスは正解がない迷路に入り込んだ気がした。



その頃。
何も知らない桃子は。マンションのリビングのソファに丸くなって、
テーブルに放り出した携帯電話を横目で睨んでいた。
遊太郎に会えなくなって、もう四日目だ。
会社の帰りに再び社員寮を訪ねてみたが、
遊太郎は留守だった。

( やっぱり研修に行っているだけなのかな。
それにしたって、電話くらいしてくれてもいいのに )


やけになってビールを飲もうとしたその時、
突然玄関のベルが鳴り響き、桃子は飛び上がった。
「遊太郎?」
研修から帰って来て会いに来てくれたのかもしれない。
単純に喜んで、ドアに向かって走った。


「ごめんなさい。モモコさん。また来ちゃった」

ドアの外には、少し遠慮がちにカミラがいた。
後ろにサーフィスも立っている。
そういえば、先日来た時にケンカになって、
なんとなく気まずい別れ方をしたままである。

「どうぞ。入って」
桃子は、仕方なく2人を中に入れた。
サーフィスが憔悴したようにも見えるのは、
喪服じみた黒いスーツのせいだろうか。
インスタントコーヒーを淹れて話を振ってみる。

「なんかあったんでしょ?」

すると彼らは目を逸らした。
やっぱり、と桃子は思った。
深刻そうな2人を見たら、誰でもすぐわかる。
自分の知らないところで、遊太郎に何かあったのだ。

「あ、あのね。モモコさん。ビックリしないで聞いてね」
いつも天真爛漫なカミラが、沈んだ様子で話し出そうとするのを、
サーフィスが受け継いだ。
「カミラ。ボクから話す。こうなってしまったのも、全てボクのせいなんだ…」

重苦しい空気が流れる。
桃子は自然と膝の上で両手を握りしめた。
そんな彼女に、意を決したサーフィスは話し始めた。



時間から切り離された青年がいる。
個人用ケアブースの中で、銀河連盟ネットワークを自ら検索し、
彼は本当に自分が記憶喪失状態なのだと知った。

時々起こる頭痛に眉を曇らせ、
レンは見知らぬ自分の履歴データを見つめていた。


~第153回をお楽しみに♪~


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by yu-kawahara115 | 2009-03-08 13:33

第151回接近遭遇「逆行する時間」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

その日、桃子は寝ぼけ眼で会社に出勤した。
昨夜はとても変な夢を見たからだ。

夢の中で、遊太郎は背中を向けて歩いていた。
驚かせてやろうと後ろから押してみたが、
振り向いた彼は桃子を見ても反応がなく、
どんどん暗いトンネルの中を歩いて行ってしまう。
目が覚めても後味が悪く、スッキリしなかった。

そういえば、遊太郎の社員寮まで押しかけた夜から、
もう3日も彼に会っていない。
いつの間にか長期研修でいなくなっていたからだ。


何なのよ。アイツ…!
恨めしく遊太郎のデスクを眺めていると、
同僚の清美が機嫌の悪そうな桃子をフォローした。
「あんなメールが流れたあとだし、
森田クンも会社を離れて、今頃良い気分転換になってるかもよ?」
「ん」
つい気のない返事をしてしまう。

例によって携帯電話もずっと繋がらない。
仕事が終わってマンションに帰っても、
遊太郎が住んでいた部屋はガランとしていて、
1人暮らしがこんなに寂しかったっけと今さら身にしみる。
だから、あんな変な夢を見てしまったのだろうか。
何も知らされていない桃子は、携帯電話のディスプレイを睨むしかなかった。



その頃。
ロータスは銀河連盟ステーションの集中医療センターへ出向いていた。
医師団のメンバーにレンの容態について尋ねる為だ。
ドクターの1人がデータを見ながら答えた。

「隕石の危険なマイナス波動は、なんとか除去出来ました」
「意識は回復したと聞いてはいるが、話は出来そうかね?」
「先ほど個人用ケアブースに移しましたが…」

何なのだろう。
医師団の歯切れの悪さに怪訝な顔を作ると、
脳波を専門とするドクターが口を開いた。
「とにかく、お会いになれば分かります」
「?」


事件から3日以上経つ。
首謀者ランドエル博士はまだ取り調べ中だ。
博士は禁じられた隕石を秘密裏に持ち出して利用し、
レンの身体から細胞を搾取しようと企んでいた。
それに加担させられたサーフィスは、洗脳されていたとはいえ、
友を陥れたショックから脱しきれずにヒーリング治療を受けているらしい。
全く厄介な事件だった。


ロータスは教えられた通り個人用ケアブースを訪れた。
楕円形の内部には、ベッドの他に白いリクライニングチェアが設置され、
レンは入口に背を向けた形で、そのチェアに座っているようだった。
ロータスはつとめてさりげなく声をかける。

「3日ぶりだな。レン」

返答はない。
チェアの前に回ってみると、
レンは深く俯いて、両手で顔を覆っていた。

面会の前に、医師団からは刺激を与えるなと注意されていたのに、
あえてロータスはこう言った。
「あの隕石に取り込まれたかと思っていたが、
どうやらこちら側に還って来れたようだな」

すると彼は、ゆっくりと顔を上げた。
わずかに苦悶を称えた眉の下で長い睫毛が瞬き、
徐々に瞳が見開かれてゆく。
次の一瞬、ロータスは言葉を失った。

彼の涼しげな青灰色だった瞳は、淡い赤に染まっていたのである。
光彩まで透けた赤だ。
しかしそこには光が全く、ない。

レンは知らない人間を見るように、こう言った。

「誰…?」

ロータスの表情が険しく変わりかけたが、
なんとか温厚さを取り戻し、自己紹介した。
「私は銀河連盟調査員である君の上司、ロータスだ」
「銀河連盟…調査員?」
「そうだ。君は地球に派遣され、地球人として生活をしているのだよ」

しばらく間があり、彼はチェアから立ち上がった。
「悪い冗談だ」
どこか荒んだ言い方だった。
「オメガ星系3339区域にいたのに、
何故、俺はこんなところにいるんだ?」
「オメガ星系だと?」
それは長期に渡り星間戦争を繰り返している領域だった。

まさか、とロータスは眉をひそめた。
確かレンが調査員を志願する約2年前まで、
彼はあらゆる星や戦場を放浪していたからだ。


レンの中で時間が逆行していた。
地球の生活も恋人のことも忘れて…


~波乱の第152回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2009-03-05 21:35

第150回接近遭遇「闇に呑まれたレン」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

何者かに洗脳された美しき貴公子サーフィスは、
壁を背にして、隕石がもたらす苦痛に耐えるレンへ近づいた。
微笑を称えながら、彼の顎を優雅にすくい上げ、
その形の良い唇に己のそれを重ねる。


「……っ!」

レンが口移しで飲まされたのは、ただのワインではなかった。
負のエネルギーを放つ隕石の波動を浸透させた液体であり、
心身の自由を奪う力を持っていた。
その圧倒的な魔の触手が全身に及ぶ直前、
彼は最後の力を振り絞り、清い水のような波動を放った。


( 目を、覚ませ。サーフィス……! )

レンの青灰色の瞳から微細な一条の光が伸び、
操られたサーフィスの瞳へと渡る。
「……?」
その水のような光を受けた彼は、
人形じみた顔をピクリと動かした。
彼の脳内に刺激が与えられ、自我による混乱が起こったのだ。


しかしサーフィスの覚醒と引き換えに、
レンの意識は急速に闇に呑まれた。
彼を洗脳の呪縛から助ける事に、残った力を使い果たしたのだ。
崩れるように倒れるレンを受け止めたサーフィスは、
今度こそ目を大きく見開いた。
「レン…?」


そこへ。
奥の部屋からのランドエルが姿を現した。
自分の手を汚すことなく、影で操作していた男。
「お見事です。サーフィス様。さあ、レン王子を私にお渡し下さい」
そう満足そうに言い、笑みを浮かべる。

「…嫌だ」
返って来たのは彼にとって耳を疑う言葉だった。
スッと笑みを消し、冷徹に命令を繰り返す。
「あなたの役目は終わりました。彼を私にお渡しなさい。
早く細胞を取らなければならない。
目を覚まして暴れられては厄介ですからね」
「嫌だ。レン…は、渡さ…ない」

サーフィスは、既に人間的な顔を取り戻していた。
「ランドエル。君の、思い通りには、させない」
「バカな。洗脳が解けたのか…?」

計算外の事もある。
ランドエルは上着のポケットから香水のような容器を取り出した。
蓋を開けてサーフィスの鼻先に近づけると、
人間を意のままに操る濃厚な気体があふれ出した。

と、その瞬間。
白い光線が空間を走り、容器が撃ち落とされた。
「何だ…?」
ランドエルの冷静な仮面が剥ぎ取られ、驚愕の表情に変わってゆく。


「銀河連盟を甘く見てもらっては困りますな。ランドエル博士?」
そう言ったのは、部屋の中に乗り込んできた偉丈夫、
キャプテン・ロータスである。
彼の背後から、銀河連盟パトロール隊員が踏み込み、
一斉にランドエルに向かって銃を構えた。

「事前にレンから通報は受けていましたが、間に合って良かった」
見下ろすロータスへランドエルが抗議する。
「無礼な。私を犯罪者扱いをするのか?」
「大量の偵察機をバラ撒いて監視したり、
地球の民間企業のコンピュータに不正侵入し、
怪文書メールを配信するのは立派な犯罪行為です。それだけではない」

ロータスはレンを見やり、厳しい口調で言い放った。
「あなたは私の大切な部下に、いとも許し難い危害を加えた」
「違う。私は特殊能力者の細胞が欲しかっただけだ!」
ランドエルは強く主張する。
「素晴らしい特殊能力者のクローン体を創造する。
その崇高なる夢を、銀河連盟ごときが邪魔するのは傲慢ではないか!」
「傲慢?」

ロータスは、テーブルの上の隕石を指して追及する。
「この隕石が、能力者にどれだけ危険な物か承知の上で、
相手を追い詰め服従させようとした。
どちらが傲慢なのですかな?
誉れ高い博士のなさる事とは思えませんが」
「私は、私は…」
「構わん。お連れしろ」
ランドエルは未練がましくレンの方を見ながら、
隊員たちに強制的に連行されて行った。

スタッフに隕石の処理を依頼したあと、
ロータスはサーフィスが抱えているレンのもとへ歩み寄った。

「ボクのせいだ…」
サーフィスは洗脳から醒めて、震えていた。
「大事な友に、取り返しのつかない事をしてしまった…」
「そんなに自分を責めてはいけない」
ロータスは諭すように言った。
「君は洗脳されていただけなのだ」


しかし、彼らはまだ予見出来ずにいた。
レンが負の波動に呑まれた事で、
どのような事態が待っているのかを。


~第151回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2009-03-01 21:40