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ようこそ、川原 祐です♪
by yu-kawahara115
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<   2008年 08月 ( 11 )   > この月の画像一覧

第93回接近遭遇「荒れ寺和尚、登場!」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

●森田遊太郎(23)
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが。
最近ようやく恋人モードに♪

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「レンが行方不明?」

ここは月の裏側に隠れた銀河連盟ステーション。
その中枢センターで、キャプテン・ロータスがスタッフから報告を受けていた。

「はい。消失したようにテレパシーチャネルが切られています。
地上スキャニングでも、まだ補足できていません」
「……」
ロータスは頭を振った。

天野律子が推測した通りかもしれない。
先刻受けた彼女からの連絡では、
レンは復讐心に燃えるガナック・ギアより、
特殊な幻覚攻撃を受けた可能性があるらしい。


「ガナック・ギアを確保しますか?
彼はホテルに滞在中です」

命令を待つスタッフへ、ロータスは慎重に言葉を選んで言った。
「いや。ガナックは違法侵入エイリアンとは違う。
まだ監視を続けてくれ」
「了解」

ロータスは眉を潜めた。
果たしてレンはどこに居るのか?
そして、無事なのか…



そのレンはいま、深く静寂な山の中にいた。
無意識に跳躍を重ねた果てに辿り着いた場所で、
近くに清々しい滝が流れていた。


彼の心を支配しているのは、後悔と己に対する苛立ちだった。
幻覚作用で桃子が別人に見えていたとはいえ、
心配する彼女を強く突き放してしまったのだ。


夜明け前の薄紫色の空の下。
樹齢何百年かと思われる巨木に、
レンは疲れきった身体を預けた。

この数日間、頭の中は灼けるような痛みにさらされ
さらに幻覚症状が精神を苛み続け、
体力的にも限界を越えていた。


そこへ。
枯れ葉を踏みしめて、ある人物が通りかかった。

がっしりした体躯に墨染の法衣をまとった僧である。
太い眉の下で糸のように細い目が少し見開かれる。

「おや、これはまた…」

僧は、巨木の下で目を閉じている異邦人に近づいた。

淡い銀色の髪をした痩身の青年。
血の気がなく真っ白な顔をしている。
肌に触れてみても体温が異常に低い。
しかもワイシャツを着ているだけの軽装から、
登山者ではなさそうだ。

僧はつぶやいた。

「やれやれ。どこぞからの迷い客かな?」



鬱蒼とした山の中に、世間から忘れ去られた寺があった。
そのお堂から読経の声が響いている。

「あの、和尚さま」
手伝いの娘がお堂の入口に現れた。
「どうした?」
「今朝、お連れになった方ですが…」
「客人が珍しいか?」
「いえ、あの。大丈夫なのでしょうか?」

彼女が言いあぐねているようなので、和尚が代わりに口にしてた。

「まるで死んでるようだと?」
「い、いえ。ですが、あんまり真っ白な顔をされているので…」

不安げな娘のために和尚は腰を上げた。

伸び放題な雑草の庭の離れに和尚の住まいがあり、
障子に仕切られた八畳ほどの部屋に、
助けた異邦人、つまりレンが寝かされていた。

和尚は手慣れた医者のように脈を取り、変わった様子はないと、
闊達に破顔一笑する。

「なに。人間はな、くたばる時は何をしてもくたばるものだ」
「は、はあ…」
無責任な言いように、娘が呆れた表情で和尚を見た。


その時。
よく通る和尚の声に反応したのか、レンの瞼が動いた。

薄く見開かれた切れ長の瞳が、
海のように深い青と灰色が溶けたような色をしている。
娘は一瞬息を呑んだが、和尚は全く動じなかった。


「さて、言葉は通じるかな?お客人。
ここは拙僧の荒れ寺だ」


~第94回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2008-08-30 17:35

第92回接近遭遇「桃子と律子」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

●森田遊太郎(23)
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。
彼氏イナイ歴三年。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが。
最近ようやく恋人モードに♪

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

泣きじゃくりながら、会社を飛び出した桃子は、
鮮やかな赤い車に乗っている女に呼び止められた。

「お久しぶりね。桃子さん。レンとケンカでもした?」
「あ……」

声をかけたのは、
ハリウッド女優ばりの美貌の天野律子である。
泣き顔の桃子に微笑んで、車に乗るように促した。
桃子は慌てて涙を拭いて助手席に乗る。

…恥ずかしい。ひどい顔を見られちゃったな。
桃子は顔を赤くしてハンカチで鼻と口を隠した。

「泣きたいときは我慢しなくていいのよ。桃子さん」
そう言って、天野律子は偶然通りかかったからと誤魔化した。
もちろんロータスの頼みを聞いて、様子を見に来たのである。

「だいたい察しはつくけれど。レンの様子がおかしいんでしょ?」

桃子は泣くのを忘れて、この美人女医を眺めた。
何で知ってるんだろう。
すると律子は優雅にハンドルを切りながら答えた。

「ヒーラーだから、何でもお見通し。だから話してくれるわね?」



赤い車は天野律子のクリニックにたどり着き、
桃子は久しぶりに美味しいハーブティを飲むことができた。

「そう。ガナックという男に誘われて、桃子さんは海で溺れたのね?
無事で良かったけれど、その翌日からレンは右目に眼帯をしていた。
なるほど、つかめてきたわ」

桃子から話を聞いて、律子は納得したように美しい顎に細く長い指先を当てた。
しかし桃子にはさっぱり分からない。

「あたし、遊太郎に避けられてるみたいで、
さっき無理やり振り向かせたんです。
そしたら…」


怖かった。
さわるな、と強く腕を振り払われた。
いつも優しい彼の、あんな険しい顔は初めてで、
驚きと悲しみで泣いて飛び出してしまったのだ。


「桃子さん。安心していいわ。
レンのその行動は、あなたに向けられたものじゃないから」

ハーブティを上品に飲みながら、律子は謎めいた事を言った。

「え?でも…」
「彼はガナックという男に幻覚を見せられているのよ」
「幻覚…?」

キツネにつままれたような桃子の表情が、
キュートで可愛いと律子は思いながら、話を続けた。

「驚かないで聞いてね。桃子さん。
多分レンには、あなたが違う誰かに見えてるのよ」
「えっ?誰にですか?」
声が上擦って高くなった。

律子は少し眉をひそめ、憂いを込めた声でつぶやいた。

「見たら胸が張り裂けそうに悲しくなる誰か…
意識の奥深くに閉じ込めていた記憶を呼び覚ます誰かかしらね」
「…そんな」

言われてみれば、遊太郎は桃子ではない別の人物を見ていた気がする。

「恋人を殺されたと思っているガナックは、
幻覚をレンに見せて復讐をしているわけ。
確かに同情するけれど、卑劣なやり方だわ。
そんなことをして、亡くなった恋人が喜ぶと思ってるのかしら?」

手厳しく言ってのけた律子に、桃子はヒントを得た。
「律子先生。もしかして。
遊太郎には、あたしがお姉さんに見えてるんじゃ…!」
口にして、鳥肌が立った。

そうだ。そうに違いない。
恨みを持つガナックという男なら、
死んだ遊太郎の姉の幻覚を見せるかもしれない。
もし、そうなら…

「どうしよう。あたし、何も知らないで、
遊太郎にひどいことしたかもしれない。
あたしの顔がもしお姉さんに見えているんだったら、
どんなに辛かっただろう…」

桃子は顔を覆った。
ハーブティはすっかり覚めていた。
しばらく間を置いて、律子が柔らかい声で諭した。

「大丈夫よ。桃子さんなら、レンを助けられるわ」
「どうやって?
あたしが近づいたら、逆に苦しませるだけじゃない!」
再び涙が滲んできそうになる。
それは悲しみよりも、何もできない自分への悔しさがこもっていた。

「桃子さんにはパワーがあるのよ。知ってた?」

律子の暖かい言葉に、桃子はゆっくりと顔をあげた。




その頃、ガナック・ギアは港で夜風に吹かれながら、
静かに、声もなく笑っていた。

「まだまだですよ。レン王子。
私の味わった地獄は、こんなものじゃない。
楽しみにしていてくださいね」


~第93回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2008-08-26 23:36

第91回接近遭遇「追い詰められて」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

●森田遊太郎(23)
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。
彼氏イナイ歴三年。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが。
最近ようやく恋人モードに♪

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「ガナック・ギアという男、特殊能力を持っているらしいな」

ここは、月の裏側にあるステーション。
上司キャプテン・ロータスは、
スタッフが調査したデータファイルを読んでいた。


ガナック・ギア。
ソリュート星より正規手続きをして日本へ来訪中。
心理学者であり、幻覚を操る特殊能力者。

「幻覚を作り出すというのか?」
ロータスの眉根があがる。
スタッフがそれを受けて補足した。
「対象物を特定し、違うものに見せるようです。
その力をメンタルヒーリングにも利用しているとか」

「ヒーリングとは聞こえがいいが、悪用すればタチが悪いぞ?」
「ですね。あまりリアリティがありすぎると、
幻覚作用によっては脳神経をヤられてしまいかねません」

恐ろしい、とロータスは思った。
もしガナック・ギアがその特殊能力を使って、
レンに復讐しようと企んでいるなら…


ロータスは腕を組んでデータファイルを睨みつけた。
レンはまだ過去に囚われている。
そこへ近づいたガナック・ギア。

(レンのことだ。
ひとりで解決しようとするだろう。しかし…)

ロータスは何かを考えていたが、ヒーラー天野律子を呼び出した。


その頃。
レンは先日の夜、ガナックに赤い光を見せられて、
昼夜分かたず幻覚に苦しめられていた。

視界に映る桃子が、
事故で死なせてしまった姉ソフィの顔に見えてしまうのだ。
ソフィの顔は白く無表情で、
「何故、私を殺したの?」と、繰り返し訴えていた。



その日も会社で残業していた桃子は、2人きりのフロアで遊太郎に話しかける。
「ね、遊太郎。今日こそホテルに行こ。
洋子叔母さん達、もうすぐカナダに帰るみたいだしさ」
「あとから行きます」

「あとからって、…一緒に行こうよ。
あたし、待ってるから」

返事がない。
デスクから顔を動かさない遊太郎に、
桃子は近づいて口をとんがらせた。

「ちょっと。最近おかしいよ?
あたし、なんか遊太郎にした?
避けられてる気がするんだけど」

ストレートな性格なので聞いてみる。
遊太郎は黙ってパソコンを見たままだ。
もう右目から眼帯は外されていたが。

「遊太郎、ちゃんと眼科に行った?」
遊太郎の右目を覗き込むようにする桃子に、
彼はギクリとした。

幻覚作用によって、桃子が姉ソフィの顔になって、
自分を覗いているように見えているからだ。

耐えきれずに椅子から立ち上がると、
何も知らない桃子が睨んだ。

「やっぱ避けてる。あたしがウザくなったんだ?」
「違います」
「じゃあ何?ハッキリ言いなさいよ」

遊太郎は答えに詰まった。
桃子を怒らせてしまったが、
彼女の顔が別人に見えていることなど桃子には言えない。

しかし桃子は引き下がらず、
遊太郎の腕をつかんで振り向かせる。
そのために彼は真正面から、姉の幻覚像を見る羽目になった。

桃子が何かを言っていたが、重なるようにソフィの言葉が聞こえて来る。


「何故、私を殺したの?愛しい弟のレン」
「…!」
「もっと生きたかった。
ガナックと結婚して幸せになりたかったのに」

遊太郎の腕をつかんでいるのは、もう桃子ではなく、
姉ソフィそのものであった。

「遊太郎?どうしたの」
重ねて問いかける桃子を、ついに遊太郎は振り払った。



「さわるな!」

一瞬。
桃子の目には、遊太郎の顔と二重映しにレンの顔が見えた。
それは今まで見たことのない激しく険しい表情だった。

「ゆ、遊太郎…」

思わず手を離した桃子に、はっとした遊太郎は、
苦渋の表情で謝った。

「…すみません。桃子さん。僕は…」
「そっか。嫌われたんだね」

桃子の目にうっすらと涙が浮かんでいた。
「そんなに嫌われてたなんて、知らなかった。
ゴメン、しつこくして。あたし…」

彼女は涙を荒っぽく手の甲で拭いて、バタバタと走って行った。

「桃子さん…」

殺風景なガランとしたフロア。
遊太郎は、再び痛み出した右目を押さえて、
デスクに寄りかかった。


ガナック・ギアのもたらしたものは、
自分から愛する者を遠ざけることなのか…。


~第92回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2008-08-24 23:05

第90回接近遭遇「狙われたレンの瞳」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

●森田遊太郎(23)
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。
彼氏イナイ歴三年。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが。
最近ようやく恋人モードに♪

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


人々が寝静まった真夜中の港で、
レンとガナック・ギアは対峙していた。
夜風がレンの少し長めの前髪を揺らせ、
白い顔に切れ長の青灰色の瞳が見え隠れすると、
ガナックが抑揚のない声で言った。

「レン王子。あなたは本当に、
あなたが殺した姉君にそっくりだ。
あの美しいソフィ王女に…。
だから、私は苦しくなるんですよ」


ガナックの指先から、気体のようなものが螺旋状に立ちのぼった。
幻想的にゆらゆらと揺れて、
虚空で突然ルビーのように赤く光り、
不意にレンの右目を貫通する。


「うっ…!」

彼は呻いて右目を手で押さえた。
何をされたのか。
脳の奥深くへ赤く鋭い激痛が走る。
彼は倉庫の壁にダン!と背を叩きつけて寄りかかった。

ガナックは、それは穏やかに笑う。

「言い忘れましたね。
実は私、一風変わった特殊能力者なんです。
地球という惑星で再会した手みやげ代わりに、
楽しんでください。レン王子」

落ち着いた足取りで数歩さがり、
ガナック・ギアはふっと消えた。

残されたレンは、
苦渋の表情で痛みを堪えながら、
右目からゆっくりと手を離してみた。

「……」

なぜか右の瞳から視力が完全に奪われていた。
しかし、それだけでは終わらない予感に、
彼は唇を噛み締めた。


あの復讐に生きる男が、レンに一体何をもたらしたのか、
…まだ誰も知らない。



週明け。
いつものように出勤した桃子は、同僚の清美に悪戯っぽく囁かれた。

「ねえねえ、桃子。
あんたマンションで森田クンを虐待してんの?」
「はあ~?」

あからさまに怒る桃子へ清美が苦笑いする。
「だって森田クン、眼帯してるからさ。
ドSな桃子がストレス解消に殴る蹴るの、
ぼ~こ~を働いてるとこ想像しちゃった♪」
「な、なんで、あたしがっ!」


そうなのだ。
今朝、遊太郎はなぜか右目に眼帯をしていたのだ。
聞いてみても、大したことはないと誤魔化すばかり。

(ひょっとしたら海であたしを助けた時、
汚れた海水が目に入っちゃったのかも?)

自分が勝手にドジ踏んで落ちたのだから、
遊太郎に悪いなと思った。
近くに良い眼科ってなかったっけ。


さっそく営業指導の高山が、眼帯姿の遊太郎をからかった。

「おう、森田。
そんな辛気臭いツラじゃあ外回りできね~じゃねえか。
きっと呆けながら歩いてチンピラにぶつかって殴られたか、
身の程知らずに可愛いオンナを眺めて、
どっかの階段から落ちたんだろ?」

「いえ。メガネがちょっとあわないだけです」

遊太郎はそう高山に答えたが、
確かに車の運転も外回りもできそうにない。

「まったくトロいオオボケ野郎だ。
しゃあねえから、お前、これやっとけ!」
にまっと笑った高山は、遊太郎に見積依頼のぶ厚い山をドンと渡した。
あとはヨロシクと手を振り、
どうやら今日はそのまま直帰する魂胆らしい。



その日の夜。
ほとんど人が残っていないフロア。
桃子はまだ残業をしている遊太郎に声をかけた。

「高山係長の仕事なんか放っておいて、
さっさと早退して眼科に行けば良かったのに」

しかしいっこうに帰る気配がない。
書類の山に囲まれている遊太郎に業を煮やして、
彼女はグイッと顔を近づけた。

「ねえったら。聞いてるの?遊太郎」

その時、桃子の顔を真正面から見た遊太郎が、
驚きと畏怖の入り混じった表情をした。

「……っ!」
「な、なによっ?」

桃子は怒った。
「ちょっと!人の顔を見て、そんなにビックリすることないでしょ?」

失礼な奴、と大いにむくれてみせると、
遊太郎は片方の目でまばたきし、間を置いて謝った。

「…すみません。桃子さん。考え事をしていたので」
「あっそ」
桃子はフンと言って帰り支度を始めた。


…何ということだろう。

遊太郎の視界に映る桃子の顔が、
姉ソフィそのものに見えた。

昨夜ガナック・ギアの特殊能力がもたらしたものは、
この事だったのか…


~第91回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2008-08-22 20:35

第89回接近遭遇「試練」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

●森田遊太郎(23)
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。
彼氏イナイ歴三年。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが。
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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「それで?君は昨夜から音信不通にして、
どこに消えていたのだ。レン?」

ここは月の裏側に隠れて存在するステーション。
上司ロータスはセンターへ急遽レンを呼び出していた。

ガナック・ギアに誘われた桃子が海に落ち、
危ない所をレンが飛び込んで無事救出した直後だった。


「申し訳ありません。
…カナダの雪山へ行っていました」
ロータスが珍しく驚く。
「雪山…?」
「はい。森田遊太郎が眠る山へ」


ガナック・ギアと再会し、
過去の忌まわしい事故について再び追及され、
気づいたら、カナダの奥深い雪山へ単身飛んでいたのだ。


厳しい寒さと氷の世界。
そこには、レンがコピーした森田遊太郎の本体が、
誰にも知られることなく眠っている。

小さく遺体が透けて見える氷の塊。
レンはその上にひざまずき、
氷の世界でずっと瞑目していたのだ。


「まる1日か?…無茶なことをする」

怒ることを忘れて、ロータスが首を振った。
「しかし、そんな時でも君は桃子君の危機に反応し、
海へ飛び込んで彼女を救出したという訳か。
…それで雪山で何かつかめたのかね?」


レンは答えなかった。
正確な答などないかもしれない。


…ただひとつ分かったことがある。
森田遊太郎をコピーした以上は、
彼に代わり自分が遊太郎としての人生を、
生きる責任もあるのだと。
周りを取り巻く人々、桃子も両親も、
何があろうと絶対に守らなくてはならないと。


ロータスが沈黙を破る。
「しかし、レン。
ガナック・ギアという男は、
君に復讐をしようとしているのか?
桃子君を港に誘い出し、まさか殺す為だったなら、
それは殺人未遂だ」

違法侵入するエイリアンと同様に、
何かが起こる前にガナック・ギアを確保するべきだと、
ロータスは考えているようだ。

レンはそれを制する。
「いいえ。
彼は直接、彼女に手をかけたわけではありません。
事故かもしれない…」
「そう思いたい気持ちもわかるが…」

ロータスは桃子の身を案じて話題を変えた。
「ところで桃子君の様子はどうかね?」
「あまり水を飲んでいなかったので、
部屋で休んでいます」

それは良かったと彼も安堵する。
ロータスにとっても、桃子に何かあれば心配だからだ。


「君も顔色が良くないが、大丈夫なのか?」

確かに、レンはいつもより白い顔をしている。
しかし彼は素っ気なく平気ですよ、と言って、
報告は済んだとばかりにセンターから去ろうとした。
その痩身の背中へロータスが言葉をかける。

「あまり自分を責めるな。
それと毎回も言っていることだが、
スタンドプレーは厳禁だぞ?」
「………」

それには返事をせず、レンはドアの向こうへ消えた。
ロータスは溜め息をついて、別室のスタッフに命じた。

「ガナック・ギアについて調べてくれ」



その頃。
桃子は、マンションで大人しく寝ていた。
レンの応急処置が的確だったせいもあり、
気分はかなり良くなっている。

( 遊太郎。結局どこへ行ってたのか話してくれなかったけど。
ちゃんと助けに来てくれた… )

災難だったが桃子には嬉しかった。
水中で強く抱きかかえられた感触を覚えている。
やっぱり男の子だなあ、なんて思う。

( いけない。なに喜んでるんだか。
これからは、知らない男に付いていったりして、
遊太郎に迷惑かけるのはやめよう )

ちょっと反省したら、すぐまた眠りに引き込まれた。



その真夜中の港。
レンは再び姿を現していた。
倉庫が建ち並ぶ空虚な場所で、あのガナック・ギアが待っていたのだ。

「殺人未遂で捕まえないんですか?レン王子。
あなたは調査員でしょう」

細いフレームの眼鏡を指で直しながら、
ガナックが意味ありげに微笑した。

「彼女が海に落ちたのは事故です」
レンは静かに否定すると、
ガナックが細い目を見開いた。

「事故だったとしても、もしあのまま彼女が死ねば、
あなたは私を恨んだはずです。
私がソフィ王女をあなたに殺された時のように」

だとしたら、
あなたも私のように地獄の毎日を送るのですよ…。

ガナックは口の端を曲げた。


~第90回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2008-08-19 22:01

第88回接近遭遇「桃子、海に沈められる!?」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

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地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。
彼氏イナイ歴三年。

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「あなたが、五十嵐桃子さんですね?
私はガナック・ギアという者です」


…なぜ自分は、
見知らぬ男の車に誘われるまま乗っているのだろう。
桃子は軽率な自分の行動に呆れながら、
助手席で緊張していた。

「そう。遊太郎と会ってたのは、あんただったのね?」

それでも気の強さを見せて睨みつける。
怖さよりも怒りが強かった。
春樹の話から、
昨晩、遊太郎が会っていた男が彼だと直感したからだ。
この得体の知れない男に、遊太郎は何かを告げられたに違いない。

桃子の心を読んだのか、ガナックは説明した。

「お察しの通り、私は地球人ではありません。
ですが、不法侵入しているエイリアンでもない。
犯罪者と一緒にされては困ります」
「………」

桃子はちょっと罰が悪そうに顔を赤くした。
やっぱり読まれている。
今まで桃子の前に現れたのは、
凶悪エイリアンが多過ぎたせいだ。


「どちらかといえば、私は被害者ですよ。桃子さん」
「被害者?」
どういう意味だろう。

ガナック・ギアは、車を人も皆無な港につけて、
降りるように促した。
夜の風が桃子の髪を揺らせ、頬をなぶる。
自分も車から降りて車を背に桃子と並ぶ。


「私の愛する女性を殺したのはレン王子。
あなたが森田遊太郎と呼んでいる同居人です。
だから、私は被害者なのですよ」
「えっ…?」

聞いてませんか?とガナックが声を低くした。

「ソリュート星に近づいた隕石を逸らしたレン王子の力は、
彼の母親と姉の乗る宇宙船をも巻き込んでしまった話を」

もちろんそれは、神崎部長から聞いたことがある。
遊太郎が自分の星を捨てた理由。

ガナックは暗い海から桃子へ視線を移した。
細いフレームの眼鏡の下で、沈みきった瞳が見えた。

「レン王子の姉、ソフィ王女は私と結婚の約束をしていた。
まさか、私にとっても弟になるはずのレン王子に、
愛する人を殺されるとは、夢にも思わなかった。
それなのに彼は地球に来て、
違法を犯したエイリアンを捕まえる調査員になり、
疑似家族に愛され、あなたのような恋人までいる」

「ちょっと待ってよ!」

桃子は上擦った声を出した。

このガナックという男は、
そんな恨みごとを言うために、
遊太郎に近づいたのだろうか。

「それって事故だったんでしょ?
遊太郎が意図的に、自分のお母さんや、
お姉さんを殺すはずないじゃん!
何で今さら遊太郎を責めるのよ!?」

そうだ。
遊太郎はきっと激しい後悔をしていたはずだ。
自分を責めて、父親とも不仲になって、
生まれ故郷を捨てたと聞く。


「事故だから許せと?」

不意にガナックの瞳が険しくなった。
桃子に迫り、彼女は思わず後退ったが、
足元には海がある。

「あんな暴力的な力の為に、彼女の命が犠牲になった。
事故だから?そんな理由で許されていいのですか?
愛する人を殺されて、残された私は、私は…」
「!」

次の瞬間、桃子は足をもつれさせた。
あっと思った時には遅く、桃子は足を滑らせて、
暗い海の中へ落ちた。

冷たい水が重く絡まり付いた。
必死にもがけばもがくほど、体はどんどん沈み、
呼吸が苦しくなっていった。

( もう、ダメだ。あたし、死ぬんだ… )

諦めかけた桃子の体を誰かが捕まえた。
電光のように飛び込んだ男がいたのだ。
彼は彼女を強く抱いて泳いでいる。

暗すぎる海の中で、テレパシーが頭の中に響いて来た。

(しっかり捕まって。桃子さん)
( 遊太郎!)


やっと水面に顔が出る。
むせかえる桃子を脇に抱えて、
遊太郎、いやレンは埠頭の片隅へ這い上がった。

幸い、暗くてひと気もない。
二人とも水に濡れながら、呼吸を整えるのがやっとだった。


「大丈夫ですか?桃子さん」
桃子の顔にへばりついた髪を、レンそっと除けてくれた。

「…死ぬかと思った」
こんな時でも、憎まれ口を叩く桃子。
「あたし、泳ぐの得意じゃないんだからね」
「すみません。でも間に合って良かった…」

レンは安堵したのか、溜めていた息を吐き出した。
そんな彼を見て桃子は目頭が熱くなった。

「遊太郎…。ありがと」

~第89回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2008-08-17 13:10

第87回接近遭遇「復讐のワンステップ」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

●森田遊太郎(23)
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。
彼氏イナイ歴三年。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが。
最近ようやく恋人モードに♪

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

遊太郎はその日、
ついにマンションに帰らなかった。
翌日昼過ぎになっても戻らない。
桃子は彼のケータイを鳴らしてみたが、
つながらず、後悔と不安を感じていた。

( 遊太郎のこと冷たいなんて言っちゃって、
悪かったかなあ )

いつも自分はストレートに思ったことを口にしてしまう。
それで後から後悔するタイプだ。
しかし考えても仕方がない。
桃子は遊太郎の両親が滞在するホテルへ行くことにした。
ひょっとしたら、遊太郎が顔を出しているかもしれない。


「遊太郎?来てないわよ。
桃子ちゃん、遊太郎に何かあったの?」

ホテルの一室。
洋子が心配そうな顔をした。
桃子は内心しまったと思ったが、急いで笑って誤魔化した。

「ううん。遊太郎は週末はいつも出掛けてていないの。
でも叔母さん達が来てるから、
予定変更して、こっちに来てるかなって思って」

すると洋子は違う方向に想像したようだ。
「週末にいつもいないって。
あの子、彼女ができたんじゃないかしら?」
「へっ?」
思わず変な声をあげてしまう。

考えてみれば、
遊太郎とは、お互いに気持ちを確認できていても、
それだけで進展していない。
桃子にとって遊太郎は恋人と呼んでもいい存在だが、
肝心の彼は…?


遊太郎に彼女がいるなら会いたいわね、と、
妄想に耽り始めた洋子をよそに、
黙っていた春樹が、桃子に言いにくそうに口を開いた。

「ちょっと、いいかな?桃子ちゃん」
「はい?」

無口な春樹に話しかけられ、桃子は目を丸くしながら、
ホテルのバルコニーに誘われた。
洋子にあまり聞かせたくなさそうだ。


「実は昨晩、ロビーにいる遊太郎に会ったんだよ」
「えっ?遊太郎、やっぱり会いに来ていたんですか?」

自分が叱りつけたから?と桃子は考えた。
しかし春樹は眉間にシワを寄せて話した。

「誰かに会ったあとのような感じだったかな。
私が声をかけるまで、あの子はじっと体を固くしてね。
なんだか絶望しているような、
そんな雰囲気で座っていたんだよ」
「え…」

驚く桃子に、春樹は気になっていたことを吐露した。
遊太郎が不意に涙をこぼしたことも…

「遊太郎が…?どうして」

指先が冷たくなった。
何だろう。何か胸騒ぎがする…

「遊太郎は誤魔化したけど、親にはわかる。
あの子は、人に言えない悩みを抱えているんじゃないか。
桃子ちゃんなら、何か知ってそうだと思ったんだがね」
「あたしは、特に何も…」

そうか、と春樹は肩を落とした。
そんな春樹に桃子はどう応えていいのか分からない。


( 遊太郎は昨晩ロビーで誰かに会っていた。
そこに何か原因がある気がするけど。
でも、誰に?
まさかまたトラブルに巻き込まれてるの? )


「桃子ちゃん?」
急に黙った桃子に、春樹が怪訝そうに問いかけたのを受けて、
桃子は、さらっと聞いてみた。

「叔父さん。遊太郎がロビーで会ったらしい人って、
どんな感じの人でした?」
「う~ん。男性だったね。日本人じゃなかった。
メガネをかけて、ビジネスマンみたいだったな」
「じゃあ、きっと仕事の打合せです。
ウチの会社、外資系企業とも取引してるし。
仕事でトラブルを持ち込まれたんじゃないかな?」

よくある話だと言わんばかりに桃子は喋った。
自分の作り話を、どこまで春樹が信じたかは別にして。

「やっぱり仕事上の悩みなのか。
一度男同士、酒でも飲みながら話した方がいいかな」
「叔父さん、悪いけど遊太郎は飲めませんから」
すぐに桃子は却下した。

( 危ない、危ない。アルコール飲んだら、
遊太郎って元の姿に戻っちゃうんだよね )


遊太郎がロビーで会っていた外国人の男。
それはたぶん地球人じゃないと桃子は経験上思った。
その得体の知れない男に、
遊太郎は何かを言われたのではないか?
それも、遊太郎を揺さぶる何かを…。


マンションに戻る道。
考えに熱中していたせいか、
黒い車が横付けして来たのに気づくのに時間がかかった。


「五十嵐桃子さん?」

穏やかな男性の声に振り向くと、
窓からメガネをかけた外国人男性が会釈した。


~第88回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2008-08-16 00:10

第86回接近遭遇「閉ざされた涙」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

●森田遊太郎(23)
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。
彼氏イナイ歴三年。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが、
最近ようやく恋人モードに♪

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

遊太郎の片方の瞳から、
宝石のように一粒だけ涙がこぼれ落ちた。
なぜか自動的に滑り落ちたのだ。


「遊太郎。お前いったい、どうしたんだ…?」

父親の春樹が、さすがに驚いて遊太郎の肩をつかんだ。
しかし、遊太郎は何でもないと、
はにかんだように笑った。

「このメガネがあわなくて目が痛いんだ。
びっくりさせてごめん。大丈夫だよ、お父さん」

「そうなのか?だったらいいが…」

春樹はそう言ったが、
遊太郎の話に納得をしたわけではなさそうだった。
何故なら先刻、声をかけた時の遊太郎は、
まるで悪夢から覚めたような顔をしていたからだ。

息子のあんな表情を今まで見たことはない。
深い絶望感と、喪失感に身を沈めたような顔。

しかし久しぶりに再会したばかりで、
無理やり問い質しても容易に話してくれない気がして、
それ以上聞くのを止めたのである。


一方、遊太郎であるレンは、
不用意に涙を見せたことを心の内で後悔していた。
常に自分の感情を、厳しく律しているつもりだったからだ。

しかし、脆くもそれが崩れ去った。
突如現れたガナック・ギアという男によって、
過去の陰惨な記憶を、脳内再生させられたのだ。
過失とはいえ、自分の本当の母と姉を死なせた過去を。

隕石の軌道修正により引き起こされた残酷な事故。
その後、ソリュート王の父親から激しく疎まれ、
レンは王子の座も、生まれた星も捨ててしまった。


固く抑えつけていた辛い感情だった。
それを春樹のいたわるような想いによって、
氷がとけたように一瞬表面にのぼり、
無意識に涙が落ちたのである。


(実の父親に化物だと疎まれた僕が、
遊太郎として今は、
地球人の父親に心配されている)

思いもかけないことだった。

( あなたがたの息子である本当の遊太郎は、
カナダの雪山で亡くなっていた。
都合良く僕は彼のDNAをコピーし、
あなたがたの前で遊太郎として振る舞っている)

久しぶりにカナダから帰国した洋子も春樹も、
レンを遊太郎だと信じて疑わず、
本気で心配し、慈しんでくれていることを思うと、
罪悪感はさらに募った。


…愛情を受け取る資格など、自分にないのに。


( 僕は力のコントロールを誤り、母と姉を殺した…
どんな理由があったとしても、
一度犯した罪は消えない)


ガナック・ギアは姉ソフィの恋人だったという。
愛する人をその弟に殺されて、
どんな辛い苦しい日々を送って来たのかは、
想像にかたくない。

ガナックは偶然とは言ったが、
おそらく意図的に近づいたような気がした。
彼の最後の言葉が気にかかる。

「せいぜい、地球の疑似家族を大切に」



その夜。桃子のマンションに、
遊太郎は帰って来なかった。


~第87回をお楽しみに♪~
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by yu-kawahara115 | 2008-08-13 13:27

第85回接近遭遇「過去からの脅迫!」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

●森田遊太郎(23)
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。
彼氏イナイ歴三年。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが、
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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ある人物から遊太郎へ、
「会いたい」とテレパシーが飛び込んで来たのは、
彼が遅くまで残業をしている夜だった。

「遊太郎、まだ帰らないの?」
同じく残業をしていた桃子が声をかけたが、
遊太郎はまだです、とすまなさそうに返事をした。


「あのさあ、遊太郎。
洋子叔母さん達の泊まってるホテルに、顔を出さないでいいの?
叔母さんや叔父さんがかわいそうだよ。
せっかくカナダから、会いに来てるのに」

すると遊太郎はまた困惑したように言った。
「すみません。桃子さん。
急に人と会うことになって、今夜は…」
「そう、わかった!」

桃子はキレた。
「勝手にすれば?遊太郎って案外冷たいんだね」
「………」

遊太郎は言い訳もせずに黙っている。
桃子はもういいと言い捨てて会社を出た。

(そりゃ遊太郎は、ホントは宇宙人だし、
叔母さん達とは他人だから、ピンと来ないのもわかるけど。
そんなのあっちは知らないんだから、
親孝行の真似だけでもしてあげたらいいのに)

イライラした桃子はこの時、見過ごしてしまっていた。
遊太郎がいつもより元気がなかったことを。


その後、遊太郎はテレパシーを寄越した相手と会うことになっていた。
相手が待ち合わせに指定したのは、
あろうことか遊太郎の両親が滞在しているホテルだった。

隅のロビーで待っていたのは、目立たない外国人の男であり、
痩せていて細いフレームのメガネをかけ、
地味なスーツを身につけていた。

「ガナック・ギアです。覚えておられますか?
地球へ仕事で立ち寄ったんですが、
あなたを見かけて、懐かしくて呼び出してしまいました」

ガナックと名乗ったこの男も、遊太郎と同じく地球人ではなさそうだ。

「よく僕だとわかりましたね。ガナック・ギア」

抑えた声音で遊太郎が聞いた。
すると彼は透視するように遊太郎の全身を眺めた。

「私も特殊能力者です。
あなたがどんな姿をしていてもわかりますよ。
レン・ソリュート王子?」

遊太郎が不意に黙ると、ガナックは蛇のように目を細めた。


「自分の母親と姉を殺した王子」
「………」


凍りつくような沈黙が降りる。
ガナック・ギアという男は静かに、しかし確実に遊太郎を責めているのだ。

「私は、あなたが殺してしまったあなたの姉上、
ソフィ王女を愛していた。
あの事件があって、あなたは星を捨てたかもしれないが、
残された私には絶望の日々でしたよ」
「………」


遊太郎の脳裏に昔の記憶が再生されていた。
ソリュート星を救う為に近づいて来た隕石を、
自分のサイキックパワーで軌道修正しようと試みた時のことを。

しかし力のコントロールが効かず、暴走したパワーは、
宇宙船に乗っていた母親と姉を巻き込み、
無惨にも、その命を奪ってしまったのだ。

「あなたの父であるソリュート星の王や、
この私がまだ悲嘆に暮れているのに、
あなたはこんな惑星で、親子ゴッコをされているのですか?」
「…!」

遊太郎は顔を上げた。
ガナックの視線の向こうには、
部屋から出てきたらしい遊太郎の父親、春樹の姿があった。


立ち上がったガナックは、さらりと言い放つ。
「一度犯した罪は消えませんよ。レン・ソリュート王子。
せいぜい地球の疑似家族を大切に」


ガナック・ギアが去っても、
遊太郎はソファから立とうとしなかった。
誰かが名前を呼んでいたが、長いこと気づかない。


「どうしたんだ、遊太郎?」

遊太郎の父、春樹が彼を見つけたようだ。
怪訝な表情で覗き込み、肩に暖かい手を置いた。
すると遊太郎が悪夢から覚めた顔で、ゆっくりと顔を向ける。


「…お父さん?」
「そうだよ。お父さんだよ、遊太郎。
忙しいのにホテルまで会いに来てくれたのか」

春樹は、遊太郎が尋常ならざる顔をしていたのに気づいたのだろう。
いたわるように話しかけた。

「仕事がうまくいってないのか?
悩みがあるなら、父さんに話しなさい」
「悩みなんて…僕は別に」


その時。

遊太郎の瞳から、
自動的に涙がこぼれ落ちた。


~第86回をお楽しみに♪(^o^)/~
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by yu-kawahara115 | 2008-08-09 14:06

第84回接近遭遇「微妙な違和感?」

~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~

●森田遊太郎(23)
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人レンである。

●五十嵐桃子(26)
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが、
ようやく恋人モードに♪(*^o^*)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「姉さんには言うけど。遊太郎、なんかおかしいのよ」

先日カナダから帰国し、
姉夫婦の家へに顔を出した遊太郎の母、洋子は、
姉の弘子にこっそりと話した。
数ヶ月ぶりに会えた息子のことが気になるらしい。

「おかしい?何言ってるの。
遊太郎ちゃんは、いい子よぉ~♪」
桃子の母親の弘子は、妹の洋子と正反対な性格らしく、
茶菓子をボリボリ食べながら機嫌よく喋りまくった。

「恥ずかしい話だけど、
うちの桃子って料理も家事もできないじゃない?
遊太郎ちゃんが器用に料理とか掃除をやってくれてるから、
ありがたいと感謝してるの。
あたしが遊びに行って何か作るでしょ?
よく手伝ってくれるから楽しくてねえ。
いっそのこと養子に貰いたいくらいなんだから。
あ、ごめんね。あんたの大事な一人息子なのに」

けたたましく笑い出す弘子をよそに、様子は首を傾げる。
「…でも、姉さん。
遊太郎は今まで料理なんてしたことなかったのよ?
部屋はいつも散らかり放題でマンガの山。
それが今では綺麗に片付いて、観葉植物なんか置いてるし、
ものすごく難しい本も読んで、別人みたいよ。
いつあんな風に変わったのかしら?」

「親元を離れたら変わるもんよ。
そんなに大したことじゃないでしょ」


そう弘子に言われても、洋子には少し違和感がある。
昨夜、久しぶりに遊太郎と夕食をしたが、
なにかよそよそしい気がしたからだ。

「よそよそしい?
社会人になって大人になったってことじゃないの?」
弘子はからかい気味に言ったが、
そうかしら、と洋子は溜め息をつく。
「前みたいに甘えてくれたり、ワガママを言ってほしいのに。
ソツがなさすぎるというか、接待されてる感じで」
「遊太郎ちゃんも、営業マンやってるから成長したのよ。
親ばなれってしたって思って喜ばなきゃ」

そういうものなのかしら、と洋子は寂しそうに肩を落とした。


まさか自分の息子の中身が、
銀河連盟から派遣された異星人であるとは、
夢にも思わないだろう。



その遊太郎は、本来の姿であるレンに戻り、
月の裏側に隠れたステーションのサイキックジムで、
あらゆるトレーニングや射撃訓練をしていた。
そこへ上司ロータスからセンターへ顔を出すようテレパシーが流れ、
彼は仕方なくジムから移動した。


「レン。君の両親がカナダから帰国していると聞いた。
トレーニングに明け暮れるのもいいが、
たまには家族と一緒に過ごした方がいい」
「一緒に?なぜですか」

ロータスの質問に、レンから極めてクールな返事が返って来たので、
彼は苦笑しながら頭を振った。

「地球人は家族を大事にする種族なのだ。
まあ、その両親も正確には君のではなく、
森田遊太郎という地球人の両親ではあるが。
いまは君は遊太郎でもあるのだからね。
交流を大切にしなさい」

レンは、わかりましたと事務的な返事をした。
「親という存在に対して、どう対応すればいいのか、
遊太郎の記憶をダウンロードしてみます」


そういう意味ではないのだが、と、
ロータスは微妙なニュアンスを伝えるために、
レンへテレパシーをゆるりと飛ばした。

(調査員として演技をしろとは言ってないぞ、レン?)

(わかりません。親子の情なんて、とうに忘れた僕には…)

そしてポロリと言った。



「昔、実の父が言ったように、
…僕は化物ですから」

まるで天気の話でもするような言い方だった。


~第85回をお楽しみに♪(^o^)/~
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by yu-kawahara115 | 2008-08-06 23:37