第18回接近遭遇「接 待」 |
~あなたのとなりに宇宙人が暮らしていたら?~ ●森田遊太郎(23)・・・童顔のメガネ男子で新米営業マン。かなり天然系。 実は、銀河連盟より派遣された地球調査員。 ●五十嵐桃子(26)・・・同じ会社の事務職のOLで、遊太郎の正体を知る、 勝ち気で現実的な女の子。 二人は表向きイトコ同士でルームシェアをしているのだが・・・? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「桃子さん。僕、今夜は接待で遅くなります」 ある朝、桃子の為に朝食を作りながら遊太郎が言った。 相変わらず豆料理が並ぶ。 「遊太郎、あんた、いまなんて言ったの?」 髪をとかしながら桃子が眉をしかめる。 遊太郎はエプロン姿でにっこりして繰り返した。 「今夜は接待が・・・・」 「接待って日本語の意味、知ってる?」 「え・・・・・」 まんまるメガネの下の子犬みたいな瞳がキョトンとなる。 「やっぱり、知らないんだ?あんた、ホントにバカ」 彼女は牛乳を豪快にラッパ飲みしながら、ふんと鼻で笑った。 どちらが男かわからない。 「接待ってのはね、取引先の相手を店とかに招待してもてなすの」 「は、はい」 「と~ぜん、お酒が出たりすりわけ。わかる?」 「あ・・・・はい」 遊太郎はモジモジして、白い頬を紅潮させた。 まるで先生に叱られて立たされている小学生みたいだ。 「アルコール飲んだら変わっちゃう宇宙人のくせに。 あんたさ、接待中に変身しちゃったら冗談じゃすまないわよ? あたしが付いていくわけにはいかないんだから」 「わ、わかってます。なんとかします」 「ふうん、だったらいいけど。巻き添えはもうカンベンしてよね」 慌ただしく先に食べ終えて、桃子はさっさと出勤してしまった。 残された遊太郎はエプロンをはずす。 口は悪いが、桃子は彼女なりに自分を心配してくれているようだ。 ・・・さて、どうしたものか? その夜、接待場所の料亭に集まっていたのは・・・・・ チューリップ生命営業一課の斎藤課長と高山係長、そして遊太郎だった。 先方は外食産業の会社であり、その保険部課長と先日会った社員2名である。 その中に遊太郎と同業者である、あの佐々木がいた。 「いや、今回は御社の団体契約のお話を頂き、ありがとうございます」 斎藤課長が酒を相手の課長に勧めると、こちらこそと彼も斎藤の盃を満たした。 「いやいや、こちらも信頼のおける御社に、社員の保険をお任せできて安心です」 すると高山が、ここぞとばかり愛想を振りまきつつ、 「森田、ボヤッとしてないで、どんどん酒をお注ぎしろよ」 と、アゴをしゃくった。 遊太郎が周りに酒を注ぎまわる姿を、あの佐々木が冷静に見つめていた。 ・・・いいように扱われてるな、とでも言いたげに。 「森田君といったね?明日のチューリップ生命を担う君にもどうぞ」 先方の課長が遊太郎の盃にも酒を注いだ。 「あ、ありがとうございます」 酒の入った盃を前に遊太郎は困惑していると、高山が容赦なく言った。 「お前みたいな半人前に、なんて有り難いことだ。おい、ちゃんと頂くんだぞ」 「は、はい」 ・・・これぐらいなら、大丈夫かもしれない。 でも、元に戻らないという保証はない。 彼の様子を見ていた佐々木は、髪を神経質そうにかきあげるフリをして、 ・・・・・ふっと小指を動かした。 一瞬、風が直線的に流れ、遊太郎の手元を揺らす。 「あっ・・・・・!」 遊太郎の手から盃がポロリと落ちて、酒の飛沫が彼のネクタイに飛び散った。 「バカッ!なにやってんだ、森田!」 怒った高山が遊太郎を叱り付ける一方で、斎藤課長が慌てて謝る。 「いや、まだ新入社員なもので、不作法をいたしまして申し訳ありません」 すると、佐々木がハンカチをすっと取り出した。 「森田君、服がビショビショだよ。向こうへ行ってちゃんと拭かないとシミになる」 そして彼は、ちょっと失礼しますと断って、遊太郎を連れて部屋を出た。 「いやあ、さすがに気がききますねえ、佐々木君は。 うちの森田に爪のアカを煎じて飲ませたいですよ」 高山が褒めちぎって、その場をうまくフォローした。 料亭の庭で、遊太郎は佐々木に頭をぺこりと下げた。 「・・・すみません。佐々木さん」 佐々木はにやっとした。銀ぶちメガネが月光に光っている。 「君、アルコールを飲むと元の姿に戻るタイプだろ?ピンと来たよ」 ~第19回をお楽しみに♪(^O^)/~ |
by yu-kawahara115
| 2008-03-09 19:05
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