第282回接近遭遇「幸せとは?」 |
〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜 ★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。 おっとりした新人営業マンだが、 その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 遊太郎が手渡したニセのプロフィールに目を通した時任晴彦は、 なるほどと顎に手を当ててニヤリとした。 「銀髪の男はイギリス人系外国人、レン・ソリュート。 職業はルポライターで、不定期に来日している。 旅行好きな五十嵐桃子さんとはソーシャルネット上で知り合った友人同士、か」 読み上げて、メールアドレスを眺め、時任は質問した。 「このアドレスは高山に教えて大丈夫なのかな?遊太郎くん」 「はい。世界中を飛び回るルポライターという設定なら、 電話よりeメールでやり取りをする方が説得力あるでしょう」 「で、高山が会いたいとメールを飛ばしたら、 君はレンくんの姿に戻って会う、と?」 「そうです」 わかったと時任は立ち上がり、インスタントコーヒーを淹れかえた。 しばらく黙ったのち、遊太郎の向かいのソファに座り、 柔らかく口を開いた。 「ところで、遊太郎くん」 「はい?」 「君と桃子さんとのことだけど」 「……」 遊太郎は不意に固い表情になった。 訊かれるだろう事を予測して、少し伏し目がちになる。 「立ち入ったことだとは思うけど、気になるんだ。 君はこれからも桃子さんと暮らすのかな」 「派遣期間が終わるまでです」 「桃子さんがずっと君と暮らしたいと言ったら? つまり、地球人と結婚することになったらという意味だけどね」 「……それは、ありません」 曇りがちになる遊太郎の顔を、 時任はやっぱりという風に覗き込み、 やがて、失礼と断って煙草を取り出した。 「ごめん。俺も地球人女性と一度は結婚した経験があるから、 君と桃子さんを見ていたら、なんなくほっておけなくて、 つい心配してしまうんだ。 答えにくい質問だったね」 「いえ、いいんです」 今回、係長の高山が遊太郎とは知らずに、 銀髪男の素性調査を探偵に依頼した件で、 ますます桃子の事は慎重に考えなければならないと、 遊太郎は思っていた。 「桃子さんは普通の地球人と結婚をした方が幸せになれます」 「そうかな」 「そうです。僕は調査員で、常に危うい立場にいます。 いつ桃子さんを危険な事に巻き込むかわからない。 平和な生活を保証することが難しいんです。 だから……」 遊太郎はあとに続く言葉を呑み込んだ。 胸の奥が、刺すように痛み出したからだ。 思わず眉を寄せ、右手で抑える。 時任が怪訝な顔になり、慌てて煙草を灰皿の中にねじ込んだ。 「遊太郎くん?」 「大丈夫です。時々、痛くなるだけで」 「ケガでもしているのか?」 「ちょっと。色々あって……」 まさかエネルギー体に穴を開けているとは言えず、 遊太郎はしばらく黙り込んで痛みが通り過ぎるのを待った。 時任が水を運んで来てくれたので、礼を口にして少し飲む。 「相変わらず、君は無茶をしてるんだ」 あえて何も問いただしたりせずに、時任が苦笑いを作る。 遊太郎という男が、普段のんびりしたサラリーマンに扮していながら、 裏では侵入エイリアンを摘発する仕事をしている事を、 時任もよく知っている。 「もっと自分を大切にした方がいい。 遊太郎くんだって、幸せになる権利はあるんだよ」 「……」 「桃子さんもそうだ。 幸せってのはさ、なるとか作るもんじゃなくて、 感じるだけでいいんじゃないのかな」 時任が語る染み入るような言葉を、 遊太郎は目を閉じて聞いていた。 幸せとは何だろう。 桃子にとって、一番幸せを感じられることとは。 胸に虚無の穴を抱えながら、遊太郎は繰り返し模索していた。 〜第283回をお楽しみに♪〜 |
by yu-kawahara115
| 2010-10-03 13:45
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