第176回接近遭遇「父に試されるレン」 |
~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~ ★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 超童顔メガネのおっとりした新人営業マンは仮の顔。 その正体はプラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 月の裏側に浮遊する銀河連盟ステーション。 そのVIPルーム。 ソリュート王が金色の長椅子に座り、息子であるレンとの再会に臨んでいた。 「お前の恋人は、生意気な娘だな」 数年振りに直接逢ったというのに、 王の口について出たのが、五十嵐桃子への感想だった。 「あんな礼儀知らずで破天荒な地球人が好きなのか。 だから、我がソリュート星への帰還命令に応じなかったと?」 「そうです」 はっきりと肯定したレンは、父親と数メートルの距離を置いて立った。 「でも、それだけではありません。 僕は銀河連盟調査員として、地球で仕事を続けたいんです」 「なるほど。よく分かった」 ソリュート王は高い鼻梁に皺を寄せた。 深く頭を下げる息子へ、王は、さりげなく声をかける。 「久しぶりに逢うのだ。もっと、近くへ来い。レン」 「はい」 彼は長椅子の前まで近づき、 鏡のように磨かれた床に片膝をついた。 「顔をよく見せよ」 黙って顔を上げる。 その時、何かが首に伸びて来た。 「!」 次の瞬間、彼は床の上に押さえつけられていた。 父親の手が、自分の首を締めているのだ。 鉄のように冷たく堅い指。 王はレンの身体の上にのしかかりながら、冷然と見下ろした。 「お前は、侵入者に対しては優秀な調査員らしいが、 相手が私だということで油断をしたのか?」 「……」 彼は黙っていた。 油断をした訳ではない。 わざと、父親の攻撃を真正面から受け止めたのだ。 「どうした、レン。 数年前、母と姉を殺した時のように、 あの恐ろしい力を使ってみせよ。 私も殺せば、すぐに自由になれるぞ」 毒のある言葉を浴びせ、押さえつけた息子の青灰色の瞳を覗き込む。 「おお、その目。 子供の時から人の心を見透かしたような目をしていたな。 私はずっと、疎ましかったのだ」 執拗に責め立てる父親に向かって、彼はゆっくり言葉を紡いだ。 「僕がやってしまったことは、一生、許される事ではありません。 それは、覚悟しています」 過失とはいえ、母親や姉を死なせたのだ。 星を飛び出しても、 いつかは向き合わなければならない事は分かっていた。 「どうか、あなたの望む通りにしてください。 もう、僕は過去から逃げないと決めたんです」 「ほう。これはまた、殊勝なことを」 まるで信じていないように鼻先で笑う。 「では、お前のその意志が本気か、私を騙す下手な芝居なのか。 これから、じっくりと試してやろう」 そう言うと、王は彼の首から手を離した。 そして懐からペンダントのような物を取り出し、 目の前にかざして見せる。 それが何かを悟って、レンは目を見開いた。 「それは…!」 心臓が早鐘のように速くなる。 それは、かつてソリュート星に墜落しようとして、 自分が爆破させた忌まわしい隕石の破片だったのだ。 悲運にも、母親や姉を巻き込んで死なせた、因縁の石である。 「確か、お前はランドエルにも同じように、この石を見せられ、 記憶障害になったようだが。 もう過去から逃げないと言ったことが嘘でなければ、 いま一度、この石と私の前で懺悔をしてみよ」 「……」 目の前にかざされた隕石は、特殊能力者であるレンにとって、 計り知れない悪影響を及ぼすものだ。 普通人の父親には見えるはずもない暗黒波動が、 触手を広げ、迫って来る。 レンは、かすれた声で、ひとこと言った。 「お父…さ・・・ん」 その言葉に、 ソリュート王の冷たい瞳が少し動いた。 その拍子に左手につかんでいた隕石が、 レンの胸元に滑り落ち、 嫌なマイナスエネルギーが拡散を開始した。 ~第177回に続く~ |
by yu-kawahara115
| 2009-06-14 00:17
|
<< 第177回接近遭遇「大きな代償」 | 第175回接近遭遇「甦る優しいキス」 >> |