第167回接近遭遇「明日を呼び覚ますキス!」 |
~あなたのとなりに宇宙人が住んでいたら?~ ★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★ 地球に派遣された銀河連盟調査員。 普段は超童顔メガネのおっとりした新人営業マンだが、 その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ異星人。 ★五十嵐桃子(26)★ 遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。 宇宙人やUFOには全く興味がないらしい。 この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 既に日付が変わろうとする真夜中。 マンションまで送ったレンの後姿を、桃子は思わず追いかけた。 「遊太郎!」 反射的に振り返ったレンへ、彼女は両腕を伸ばし、 彼の首にふわりと回した。 そして自分のふっくらした唇を重ね合わせる。 「!」 その瞬間である。 彼女にキスをされたレンの脳裏に、 突然真っ白な光が生まれた。 特殊能力者である彼が無防備でいるとき、 触れた人間の思念を、バリアも介さず感応してしまうのだ。 凍てついた心の暗闇に、 2人が過ごした日々の映像、その時の生きた感情が、 怒涛のように流れ込んで来る。 それは止めようもない、嵐に似た強い流れだった。 桃子の想いを受け止め、なされるがままにされていたレンは、 しばらくして、ふうっと青白い眉間を曇らせた。 脳を横断するかのように稲妻じみた激痛が走ったのだ。 「……っ!」 彼が漏らした吐息に、桃子はハッと我に返った。 「ご、ごめん」 彼女は顔を赤く染める。 方膝をついた彼は、額を手で押さえ、息を乱していた。 おそらく、急激に雪崩れ込んで来た映像や思念が、 脳に立ちはだかる何らかの壁を、強く刺激したのだろう。 体力を消耗するがために、黒く変えていた髪が、 元のプラチナに戻っていくのを見て、桃子は不安でたまらなくなった。 「ゆ、遊太郎。ごめん。辛いの?あたしのせいだね」 「…違う」 「だって、あたしが、あの…、キスしたから」 「もう、行け」 「え?」 「早く、行ってくれ」 「そんな…。このままじゃ、行けないよ」 「俺にかまうな。…帰れ!」 片手でこめかみを押さえたまま、レンは立ち上がり、 桃子を鋭い目で睨んだ。 白い顔に、ルビーのように真紅の瞳で睨まれると、 さすがに怯んでしまう。 彼女がそっと離れた隙をついて、 レンは瞬間移動して空間からかき消えた。 「遊太郎…!」 後悔は先に立たない。 仕方なく部屋へ帰るなり、桃子はシャワーを浴びて、 ひとり自己嫌悪に陥った。 …本当に、何をやってるんだろう。あたし。 レンが先刻、自らソリュート星へ行くと聞いて、 二度会えなくなるかもしれないと、内心で動揺していたせいもあった。 だから別れ際、つい衝動に突き動かされての行動だったのだが、 これでは自分より年下の男の唇を奪う、欲求不満な女みたいだ。 何故なら、普通の恋人なら、ありふれた別れ際のキスだが、 相手は自分との記憶を一切失っていて、 地球に初めて訪れた異星人に戻ってしまっているのだから。 それなのに、あんなことをして、 彼をまた追い込んだかもしれない。 桃子はシャワーのあと、濡れた長い髪にすっぽりタオルを被せ、 リビングでぼうっと座り込んだ。 もう、一緒に暮らした日々は戻らないのだろうか。 色々あったが、楽しかった雑多な毎日が遠い昔のように思えて、 せつなくて涙がポロリとこぼれて消えた。 一方、銀河連盟ステーションの個人ケアブースに戻ったレンは、 記憶障害による激痛に見舞われていた。 どんな薬も効かない痛みだと知っている。 ベッドの端にうつ伏せて頭を抱え、 息を殺して耐えるしかないのだ。 心は思い出そうとしてもがいているが、脳の何かが、それをまだ許していない。 そういうところなのだろう。 桃子の戸惑った表情が辛い。 あれほど自分のことを心配させているのに、 何もしてやれない自分が、ただもどかしかった。 ~第168回をお楽しみに♪~ |
by yu-kawahara115
| 2009-05-03 23:05
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