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ようこそ、川原 祐です♪
by yu-kawahara115
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「プロポーズへの決意」第288回接近遭遇

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

現実的なOL・五十嵐桃子と、
まん丸メガネの森田遊太郎(異星人レン)。

表向きはイトコ同士でルームシェア歴一年。
お互い惹かれあいながらも、
異星人との恋愛は難問だらけなようで。。。?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「ねえ、女からプロポーズっていうの、アリだよね?」

ある日の昼休み。
会社近くの遊歩道のベンチで、
おにぎりを食べていた桃子はなにげなく同僚の清美に訊いた。
清美は目を輝かせ、サンドイッチを膝の上に置いた。

「え?ついにあの超美形彼氏と結婚するんだ?桃子」
「違う。例えばのハナシ」
誤魔化しきれないのはわかっていながら、ムスッと否定し、
桃子は一般的な話だとでも言うように訊いた。

「例えば女から切り出す場合、ストレートに言った方がいいのか、
遠回しに言った方がいいのか、どう思う?」
すると清美は、キャハハと笑い飛ばした。
「オトコなんて遠回しで通じるわけないじゃん。
そんなの桃子には向かないし、ハッキリ言ったら?
あたしと結婚して、新婚旅行で世界一周しましょって」
「新婚旅行、世界一周……」

桃子は目の前がチカチカした。
彼女がベタ過ぎることを言ったからではなく、
全く予想外のイメージをしてしまったからだ。

(あの遊太郎と新婚旅行いくなら、世界じゃなくて、
天の川銀河の方がリアルかも……)

そうなのだ。
イトコの振りをして同居する森田遊太郎を、
どういうわけだか好きになって1年。
両親も早く結婚しろとうるさく騒ぎたて、
彼女自身もその意志を固め始めたものの、
あの仕事バカでストイックな遊太郎が、
はいそうしましょうか、などとプロポーズを承諾するとは思えない。
桃子は、あからさまにため息を吐き出した。

「なになに?彼氏、結婚とかする気ないの?」
清美が真面目に質問する。
「桃子のことは好きなんだよね?」
「たぶん」
「たぶん?なにそれ。」
曖昧な桃子の返事に清美は眉をよせながらお茶を飲み、
次に知ったような顔で結論づけた。

「あれじゃない。まだ女ひとりに束縛されたくないんじゃない。
桃子より、かなり若いんでしょ、その彼氏」

相変わらずズケズケと言われて、桃子は清美を睨んだ。
しかし彼女は携帯をいじり、無邪気にメールをチェックしているだけだ。
客観的に見たら、男が結婚するつもりなどないのに、
女の方は捕まえようと焦っている風に見えるかもしれない。

でも、ずっと一緒に暮らしたい。
それは、ちゃんと伝えたいのだ。

桃子は決めた。
ストレートに言ってみよう。もともと色々と考えて行動するのは苦手だった。
直感を信じて遊太郎にプロポーズをしてみよう。

桃子はちいさく拳をあげた。
「よっしゃ!」
そんな彼女に、清美は一瞬引きながらも、ニヤニヤしていた。


〜第289回をお楽しみに♪〜

※お詫び:しばらくお休みしてしまい、すみませんでしたm(_ _)m
引き続きまたよろしくお願いします(^o^)/
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# by yu-kawahara115 | 2010-12-23 16:44

「桃子、遊太郎に詰め寄る」第287回接近遭遇

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

現実的なOL・五十嵐桃子と、
まん丸メガネの森田遊太郎(異星人レン・ソリュート)。

表向きはイトコ同士でルームシェア歴一年。
お互い惹かれあいながらも、
異星人との恋愛は難問だらけなようで。。。?


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

遊太郎が桃子につれて行かれたのは、
社内に設置されているドリンクカウンターだった。
夕刻のせいか、社員は誰もいない。

「遊太郎、あたしが何を訊きたいのかわかってるよね」

腰に手を当てて桃子が睨み付ける。お決まりのポーズだ。
遊太郎は、彼女をあまり怒らせてはいけないと思ったのか、
はいと素直に答えた。

「探偵事務所に呼ばれた件ですよね。
あれは知り合いの探偵で……」
「知り合い?」
眉をつりあげる。
下手に誤魔化すなよと迫る。
その迫力に圧されて、遊太郎はたどたどしく説明した。

「桃子さん。覚えてますか。時任さんですよ」
「時任?」
しばらく考えて、ああと桃子が気づく。
「確か、あたしが落としたモノを拾って、会社に届けてくれた人だっけ。
なに、あの人。探偵始めてたんだ?」
「はい。偶然にも時任さんの事務所に、
高山係長から、僕の身辺調査の依頼が入ったようで、
時任さんは気がついて僕に連絡を下さったんです」
「へ、そうなの?」

先日遊太郎にかかって来た電話は、時任探偵事務所からで、
先日、今回の件の対策を話し合って来たのだと説明した。

「ふうん。で?あんたのニセの情報を流したってわけか。
でもさあ、あのしつこい高山が納得すると思う?」
桃子はまだ疑うように遊太郎を見やる。
本当に大丈夫なの?と慎重に問い詰めた。

「もちろん連絡先は本物です。
いつでも『本当の僕』と会えるように、
アドレスを高山係長に渡してありますから」
「はあ?会うって、ちょっと」

つい声が高くなり、誰かがドリンクを買いに来たので、
作り笑いで誤魔化しながら奥へ遊太郎を押しやる。

「高山と会うって?」
「呼び出されれば、素顔の僕になって、会うということです」
サラッと答える遊太郎に桃子が噛みついた。
「バカなこと言ってんじゃないわよ。
素顔さらして妙なことになったら知らないからね」
「大丈夫ですよ。普通に話をするだけになるはずです」
「お話しあいが出来る相手かっつーの。
あんた、ほんっとにお人好しだよね」

あの高山のことだ。
何か低レベルなワナを仕掛けてくるに決まっている。
それを承知で、ノコノコ呼び出されて会いに行く気なのだろうか。
それとも、ぼんやりした遊太郎だが、何か考えでもあるのか。
いや、のほほんとしたまん丸メガネを見る限り、
特に何も考えていないように思える。
すると遊太郎がにっこり笑った。

「そろそろ帰りましょうか。
今夜は桃子さんの好きなものを作りますよ」
「ったく」

いつまでも居残っているわけにもいかないので、
桃子は仕方なく遊太郎と一緒にフロアへ戻った。
本当はこんな話をしたかったわけじゃない。
本当に訊きたかったのは、遊太郎の気持ちだ。

(遊太郎は、あたしとずっと暮らしたいと思ってる?
あたしと一生いっしょにいていいって思う。?)

しかし、それを口にする事が桃子にはまだ出来なかった。


〜第288回をお楽しみに〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-11-07 14:27

第286回接近遭遇「見え透いた企み」

翌日の夕刻。
遊太郎は車の中で係長の高山の際限ないお喋りを聞かされていた。

「見ろよ。高い金を探偵に払った甲斐があるってもんだ。
ちゃんと銀髪野郎の素性がわかったんだからな」
話題は、探偵事務所に依頼した銀髪男の身辺調査の件だった。

「五十嵐の周りに影のようにまとわりついてる、
あの忌々しい銀髪野郎、フリーのルポライターだったんだぜ。
イギリス人で、旅先で五十嵐と出会ったらしい。
しかしよ、ルポライターって胡散臭い奴が多いから、
五十嵐もだまくらかされてるにちげえねえよな」

遊太郎は黙って聞きながら真面目に運転を続けていた。
取引先企業には全て足を運んだので、あとは帰社すれば良いのだが、
延々と高山のお喋りを聞く羽目になってしまったのだ。

「おい、森田。俺の話をちゃんと聞いてるのか?」
「聞いてますよ」
「少しは興味を持って相づちを打つとか、
質問をするとかしたらどうなんだよ?
ったく、なんの面白味もねえ。
独り言してる気分だぜ」
「すみません」
「お前のイトコの五十嵐が、うろんな奴と関わってんだ。
お前だって気になるだろうが」
「はい」

遊太郎は仕方なく同意した。
気になるも何も、高山が目の敵にしている銀髪男は、
遊太郎の本来の姿なのだ。
しかし高山が依頼した探偵が遊太郎の知人であり、
うまくカモフラージュした銀髪男の素性を、
高山が信じているらしいので、内心安堵はしていた。

「銀髪野郎のパソコンのメアドもゲットしたし、
これでいつでも、奴を呼び出せる」
高山は好戦的に拳を握った。
そのあたりで遊太郎はさりげなく質問する。

「高山係長はその男を呼び出して、どうするんですか?」
「ブチのめす。わかりきったこと聞くな」
「すみません」
「お前、さっきからすみませんしか日本語知らねーのか?
まあ、いいや。とにかくマトモにいくと、またやられちまう。
あいつ、カタギじゃねえみたいにクソ強ぇからな。
普通にケンカするんじゃ不利だ。
五十嵐の目の前で大恥をかかせる方法を考えないとな。
五十嵐の目を覚まさせて、俺の方に向かせるためにさ」

楽しげに笑い、探偵から渡されたらしい調査資料を眺めた。
もちろん遊太郎には何が書かれているか見なくともわかっている。
ダミーのプロフィールを考えたのは遊太郎自身だからだ。
高山がストレートに自分に連絡を取れるようにしておかなければ、
高山が懲りもせず別の探偵に調査を依頼しかねない。

「でもよ」
ふと、資料から顔を上げて高山が遊太郎を見た。
「お前、この銀髪野郎と、本当は影でつるんでたりしねえよな?」
鋭い勘ぐりに遊太郎は慌てることなく、
のんびりとした調子で訊き返した。

「つるむ?」
「いや、だってよ。イトコだし、
俺よりかは五十嵐のプライベートは知ってそうじゃね?
なんたって弁当まで作ってたりするし」
「はあ」
「それくらい親しけりゃあ、五十嵐の男関係、なんとなくわかりそうなもんじゃねえか。
それにお前も、五十嵐に惚れてるみたいだしよ」
「そんなことないですよ」

あっさり否定するが、まるで信じてない高山は、
皮肉たっぷりに言った。
「どうせ、片思いだし、自分にゃかなわない。
けど、いつもイジメられてる俺を応援する気もねえ。
だとすりゃ、胡散臭い奴でも銀髪野郎の味方でいようとかさ。違うか?」
「違います。もうすぐ会社に着きますよ」

全く関心のないフリをして、
遊太郎は社有車をチューリップ生命本社の地下駐車場へ動かした。


社内にいる社員はまばらだった。
斎藤課長に帰社報告を済ませた遊太郎は、
待ち伏せしていたらしい桃子に腕を後ろからつかまれ、ヒヤッとした。
周りの目があるため、桃子の顔は事務的に笑みを作ってはいたが、
目は怖かった。

「お疲れ様、森田くん。
ちょっと事務処理で打ち合わせしたいことがあるんだけど」
「あ。は、はい」

首根っこを捕まえられた猫のように、
遊太郎は桃子のあとをついてフロアを出て、
自販機前のドリンクカウンターへ案内された。
彼女の話はわかっている。
スレ違いを理由に、今回の素性調査がどうなったのかを、
まだ桃子に話していなかったからだ。


〜第287回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-10-31 17:18

第285回接近遭遇「彼氏のキモチ」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

部長の神崎から、
桃子と遊太郎の結婚には特に反対の理由もなく、
逆に望ましいとさえ言われたが、
問題なのは遊太郎の意思なのだと桃子は諭された。

「その様子では、まだ森田くんには話してないようだね」
「……はい」

桃子は勢いを失って下を向いた。
言うタイミングがわからないし、実のところ勇気がないのだ。
ひょっとしたら、遊太郎は何も考えてなくて、
結婚したいと思っているのは自分1人なのではないか。
何故なら、遊太郎は前に言ったからだ。
誰ともそうなる気はない、と。

神崎はワインを一口飲んで、優しい表情で桃子を見た。
「桃子くん」
「はい」
「森田くん、いや、レンをそれほどまで好きになってくれて、
私は嬉しい。礼を言わなければ。本当にありがとう」

その言葉を聞いて桃子は真っ赤に顔を染めた。
慌てて両手をバタバタさせる。
「なんで、お礼なんて。そんな……神崎部長!」
「いや。今まで本当に色々な事件に巻き込まれながらも、
桃子くんは一途に彼を思いやり、信じてくれたのだから。
異星人という壁を超えて、愛を育んで来た桃子くんは素晴らしい」
「素晴らしくないですよ。
もっと女らしい地球人だったら良かったけど、
あたしなんか、自慢できるとこ1つもないし、
でも、出会って好きになっちゃったから、仕方ないというか。
遊太郎には、ずっとずっと、
そう、あたしがおばあちゃんになってもそばにいて欲しいんです」

穏やかな神崎が目の前だと、素直に本音が言える。
神崎はしばらく黙って、
何かの思念を読み取るように虚空を眺めたあと、口を開いた。

「森田遊太郎。つまりレンは、幸せとは程遠い場所に身を置いて、
長い間、孤独だった。
そんな彼の心をつなぎとめるには、
生半可な感情や意志では太刀打ちできない。
本気で、ぶつからなければ伝わらないのだよ。
それだけ、レンという男の中には喪失感が在るということだ」
「喪失感」

桃子は息を呑み込んだ。
それは遊太郎、いや、レンがいまだ過去を背負って苦しんでいるからだろうか。
それを完全に克服できる日が来るのか。
克服しなければ、彼は幸せにはなれないというのだろうか。

「桃子くんが本気ならば、レンを地上につなぎとめられるかもしれない。
私はそう信じているのだがね」
「あたしが?」
「そう。全身全霊をこめてぶつかれば。
あるいは、自己犠牲に傾きやすいあの男の心を、
暖かく人間らしいぬくもりで満たすことが出来る可能性はある。
桃子くん次第だな」

応援しよう、と神崎が大きな手をさしのべ、
桃子はおずおずと自分の手をそれに近づけた。
ぐっと強く握られ、彼女は暖かいメッセージを受け取った。
それは、まるでレンの父親のように深く大きな愛情を込めたものだった。

( レンを幸せにしてくれたまえ。
桃子くんなら、それが出来る。私は信じているよ )

桃子は涙が出そうになるのをこらえた。
神崎がこんなにも自分たちを気遣い、支えてくれている。
なんて有り難いことなんだろう。
自分に出来るかどうかわからないけれど、
やれるだけやってみよう。
遊太郎、レンと幸せになるのだ。

「神崎部長、ありがとうございます。
あたし、なんか勇気が出た気がします」

桃子は強く手を握り返し、
茶目っ気たっぷりに笑顔を向けた。



〜第286回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-10-24 20:34

第284回接近遭遇「上司に向かってカミングアウト」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「神崎部長。あたし、どうしたらいいんでしょうか?」

高級レストランの大広間。
桃子はテーブルの向こうにいる神崎に、切羽詰まった表情で訊いた。
もう頼れるのは神崎しかいないと思ったのだ。

「桃子くんは心配性のようだ」
穏やかな笑みで神崎はワインを一口飲んだ。
いついかなる時もダンディで、受け入れる懐の深さを持つ上司である。
「そりゃ心配します。遊太郎はいつもぼやっとしてて、
自分の正体がバレそうになるかもしれないのに、
探偵に呼び出されてノコノコ行っちゃって、
あたしには電話もメールもして来ないんですよ?」

空腹が満たされてパワーが戻って来たらしい桃子は、
ドンとテーブルを叩いて、慌ててすみませんと謝った。
そんな彼女を微笑ましく観察しながら、神崎が答える。

「銀河連盟調査員は常日頃から、
あらゆるリスクに対応できるよう訓練されている。
従って、探偵やマスコミなどが調査しても、
まず真相にたどり着けないようになっているのだ。
何も心配することはないから、安心しなさい」
「そうですか?・・・・・・なら、いいんだけど」

上司である神崎がそう言うのなら、いたずらに焦る必要はないのだろう。
考えてみれば、彼らは地球人ではない。
細かい情報操作は朝飯前なのかもしれない。
豊富に並ぶデザートも終わり、桃子はひと呼吸置いてから、
神崎に真面目な表情を向けた。


「あの、ずっと前から相談したかった事があるんです」
「改まって何かな?」
「さっきの話とは別件で。……プライベートな事なんですけど」
「どうした。桃子くん。
そうかたくならずに遠慮なく話してみなさい」

柔らかく促されて、桃子は息を呑み込んでから、
思い切って溜めていた思いを口にした。

「・・・・・・あたし、遊太郎と結婚したいんです」

早口でそう言ってからキュッと目を瞑り、下を向く。
とんでもない事を、打ち明けてしまった。
でも止められなかった。
ずっと自分だけの胸に隠して、誰か頼れる人に相談をしたかったからである。
しかしすぐに後悔する。
普通に考えると、反対されないはずがないからだ。
恐る恐る顔をあげると、神崎がにこやかに桃子を見つめていた。

「よく言ってくれたね。桃子くん」
「え?」
「いつ決心してくれるのかと私は待っていたのだよ」
「は、はい?」

意味がわからなくて、桃子は目をぱちぱちさせた。
重大なカミングアウトをしたというのに、
神崎はくつろいだ様子で、新しいワインを持って来させ、
桃子にグラスを持たせた。

「神崎部長?あの、反対しないんですか」
「何故かね。結婚ほど素晴らしいイベントはない。
おめでとう、桃子くん。乾杯しよう」
「はあ」

のせられて乾杯をしてしまった桃子は、
神崎が満足そうに話すのを夢見心地で聞くことになった。

「実は最初から、こうなればいいと考えていたのだ。
というのは、調査員は通常1人で住居を構える事の方が多い。
しかし、あえて同居のモデルケースとして、
君たちを選んだのは、いつか異星間の交流を経て結婚をしてほしいと、
私が望んだからだ」

桃子は目を大きく見開いた。
反対どころか、神崎は2人がいつか結婚するように、
望んで同居をさせていたと言うのだ。

「銀河連盟調査団の規則には、
派遣先の現地人、つまり地球人との結婚を禁止する条項はない」
彼女の疑問を払拭するように神崎は説明した。
「私も昔、地球人女性と結婚した経験もある。
むしろ結婚こそ、地球人を知る上で貴重な経験になると、
我々は考えているのだよ」

しかし、と神崎はそこで桃子にやや真剣な眼差しを向けた。

「森田くんも結婚を望めば、の話なのだがね。
彼にはもう話したのかな?桃子くん」
「それは……」

桃子は答えに詰まった。


〜第285回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-10-17 17:00

第283回接近遭遇「桃子、神崎部長に相談する」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

桃子はイライラして残業も手につかないでいた。
遊太郎は外回りで帰って来ないし、
文句を言いたい係長の高山も接待の名目で、
ちゃっかりと遊びに出かけたようだ。

「どいつもこいつも、ムカつく!」

桃子は勢いつけて書類箱をデスクにドンと置き、
まだ居残った他部署の社員たちを震え上がらせた。
桃子が怒っている理由は、ひとつ。
高山が遊太郎、正しくは遊太郎の本来の姿である銀髪男の素性調査を、
探偵に依頼したという件だ。
遊太郎も遊太郎で、さほど慌てる様子もなく、
その探偵事務所からかかってきた電話に呼び出され、
仕事の帰りに立ち寄ると言って、
のんきに会社から出て行ったきり電話やメールの一本もない。

「まあ、もともと、あいつはマメにメールとかしないヤツだけど。
あたしがこんなに心配してんのに、
のほほんとしちゃって、どういう神経なのよ?」

ぶつぶつ文句をたれながら乱暴に仕事用具を片付け、
大股で更衣室に向かおうとした矢先、エレベーターから誰かが降りて来た。
ダンディにスーツを着こなした人物は、桃子を見て穏やかな笑顔を向けた。

「おや、こんな遅くまで残業をしていたのかね。桃子くん」
「神崎部長!」

桃子は天の助けだとばかり大きな声を出し、
慌てて他に誰もいないか辺りを見回した。
すると、神崎は静かに笑い、
せっかちに喋ろうとする彼女をまあまあと優しく制した。

「久しぶりに夕食でもどうかね?
どうせ、森田くんは連絡無しで出歩いたままだろうし、
桃子くんも少し落ち着いた方がいい」
「……はあ」

桃子は顔を赤くした。
おそらく神崎は、桃子がイライラしている原因を見通しているのだろう。
地下駐車場で待っているので着替えて来なさいと微笑んだ。

それからほどなく、部長の神崎と桃子を乗せた黒いBMWは、
夜の街をスムーズに走り抜け、郊外にあるレストランに向かった。
そこはまるでドイツの古城のような荘厳な建物で、
桃子は高い天井やシャンデリアを呆気に取られながら眺め、
神崎の背中を頼りにおぼつかない足取りで、ついて歩いた。
神崎が貸切にしてしまった大広間に通された桃子は、
運ばれてくる様々なコース料理を驚きとともに、
その一級品の味わいを堪能することになった。

「お腹はいっぱいになったかね?桃子くん」
数本灯るロウソクの向こうで、
紅茶を飲みながら、神崎が柔らかく訊いた。
桃子はデザートを口にし、とびきりの笑顔を返した。
さっきまであんなにイライラしていたのに現金なものだ。

「はい。ありがとうございます。
とってもとってもおいしかった。ご馳走さまでした」
「満足してもらえて良かった」
「それにしても、部長はやっぱりグルメなんですね。
こんなに高そうなレストラン、あたし初めてです」
「地球の食べ物は、一応は全て味わってみることにしているのだよ」

そう語った神崎も、遊太郎と同じく異星人である。
チューリップ生命本社人事部長の肩書きは表向き。
実際は、銀河連盟調査団日本支部のキャプテンという顔を持つ。
しかしいまは、50代のダンディな男として、
桃子の良き理解者だ。

「桃子くんのイライラはわかっている。
どうも、地球人は我々とは違う意味で、
相手の弱みを探し出そうと考えるようだ」
神崎が桃子の抱えた問題を先に口にしたので、
桃子は安心したように喋り始めた。
「はい。高山係長がまさか探偵事務所なんかに、
遊太郎の事を調べさせていたなんて知らなくて。
遊太郎も探偵からの電話に平気で呼び出されて行っちゃうし。
あたし、気が気じゃなくて」

こうなったら、遊太郎の直々の上司に聞いてもらうしかない。
桃子は紅茶を一口飲んで、神経な眼差しで神崎に向き直った。

「あたし、どうしたらいいんでしょうか?
教えて下さい。神崎部長」


〜第284回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-10-10 15:41

第282回接近遭遇「幸せとは?」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

遊太郎が手渡したニセのプロフィールに目を通した時任晴彦は、
なるほどと顎に手を当ててニヤリとした。

「銀髪の男はイギリス人系外国人、レン・ソリュート。
職業はルポライターで、不定期に来日している。
旅行好きな五十嵐桃子さんとはソーシャルネット上で知り合った友人同士、か」
読み上げて、メールアドレスを眺め、時任は質問した。

「このアドレスは高山に教えて大丈夫なのかな?遊太郎くん」
「はい。世界中を飛び回るルポライターという設定なら、
電話よりeメールでやり取りをする方が説得力あるでしょう」
「で、高山が会いたいとメールを飛ばしたら、
君はレンくんの姿に戻って会う、と?」
「そうです」

わかったと時任は立ち上がり、インスタントコーヒーを淹れかえた。
しばらく黙ったのち、遊太郎の向かいのソファに座り、
柔らかく口を開いた。

「ところで、遊太郎くん」
「はい?」
「君と桃子さんとのことだけど」
「……」

遊太郎は不意に固い表情になった。
訊かれるだろう事を予測して、少し伏し目がちになる。
「立ち入ったことだとは思うけど、気になるんだ。
君はこれからも桃子さんと暮らすのかな」
「派遣期間が終わるまでです」
「桃子さんがずっと君と暮らしたいと言ったら?
つまり、地球人と結婚することになったらという意味だけどね」
「……それは、ありません」

曇りがちになる遊太郎の顔を、
時任はやっぱりという風に覗き込み、
やがて、失礼と断って煙草を取り出した。

「ごめん。俺も地球人女性と一度は結婚した経験があるから、
君と桃子さんを見ていたら、なんなくほっておけなくて、
つい心配してしまうんだ。
答えにくい質問だったね」
「いえ、いいんです」

今回、係長の高山が遊太郎とは知らずに、
銀髪男の素性調査を探偵に依頼した件で、
ますます桃子の事は慎重に考えなければならないと、
遊太郎は思っていた。

「桃子さんは普通の地球人と結婚をした方が幸せになれます」
「そうかな」
「そうです。僕は調査員で、常に危うい立場にいます。
いつ桃子さんを危険な事に巻き込むかわからない。
平和な生活を保証することが難しいんです。
だから……」

遊太郎はあとに続く言葉を呑み込んだ。
胸の奥が、刺すように痛み出したからだ。
思わず眉を寄せ、右手で抑える。
時任が怪訝な顔になり、慌てて煙草を灰皿の中にねじ込んだ。

「遊太郎くん?」
「大丈夫です。時々、痛くなるだけで」
「ケガでもしているのか?」
「ちょっと。色々あって……」

まさかエネルギー体に穴を開けているとは言えず、
遊太郎はしばらく黙り込んで痛みが通り過ぎるのを待った。
時任が水を運んで来てくれたので、礼を口にして少し飲む。

「相変わらず、君は無茶をしてるんだ」
あえて何も問いただしたりせずに、時任が苦笑いを作る。
遊太郎という男が、普段のんびりしたサラリーマンに扮していながら、
裏では侵入エイリアンを摘発する仕事をしている事を、
時任もよく知っている。

「もっと自分を大切にした方がいい。
遊太郎くんだって、幸せになる権利はあるんだよ」
「……」
「桃子さんもそうだ。
幸せってのはさ、なるとか作るもんじゃなくて、
感じるだけでいいんじゃないのかな」

時任が語る染み入るような言葉を、
遊太郎は目を閉じて聞いていた。
幸せとは何だろう。
桃子にとって、一番幸せを感じられることとは。
胸に虚無の穴を抱えながら、遊太郎は繰り返し模索していた。


〜第283回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-10-03 13:45

第281回接近遭遇「銀髪男の素性は?」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

時任晴彦の探偵事務所を訪問した遊太郎は、
自分の素性を調査しようとしている係長の高山について、
どう対処するべきか考えていた。

高山が依頼した探偵が奇遇にも、
同じ異星人である探偵、時任晴彦であった為、
対策を講じやすくはなっているのだが........

時任はインスタントコーヒーを飲みながら、
少し悪戯っぽい視線を遊太郎に流した。
酸いも甘いも味わった中年男が、
青臭い小僧を見る真似をしてみたかったらしい。

「で、事の原因は三角関係かな?遊太郎くん」
「三角関係?」

時任ほど地球生活に慣れていない遊太郎はキョトンとした。
地球人に紛れて暮らしているものの、
基本的なマニュアルには無い言葉にぶち当たると、
なにげない日常会話でも、つまづく事がしょっちゅうだ。
首をひねる遊太郎に、時任は笑い出した。

「ごめん、ごめん。
ちょっとからかいたくなっただけだよ。
君ってさ、エイリアン狩りはプロだけど、
こと恋愛関連には恐ろしく疎いから」
「はあ......」

その通りなので、遊太郎は怒りもせずに困ったように頭を掻いた。
三角関係の意味がなんとなく理解できたのだ。
「時任さんに依頼して来た高山係長は、桃子さんに関心を持っているんです」
「なるほど。それで、ひょんな事で素顔を晒してしまった君を、
盗撮した高山が嫉妬をしているというワケか」

時任は高山から渡されたらしい写真を見つめた。
暗くてハッキリしていないが、温泉街らしい場所で、
桃子が長身の青年と手をつないでいるところが映り込んでいた。
青年は黒い帽子を被り黒いサングラスをかけてはいるが、
白い襟足から少し覗いた銀色の髪や整った顔立ちは、
遊太郎の素顔に間違いない。
高山はまた、この銀髪の男に殴られてもいる。
今年の夏、海岸で桃子に迫り、襲おうとしたからだ。

「本来の姿の君に思い切り殴られて高山の恨みは募り、
この写真を頼りに調査を依頼してきたというわけか。
地球人にはありがちな恋の逆恨みだね」

時任は苦笑いし、で、どうするのとまん丸メガネの地味な男に訊いた。
いくら調査しても、この童顔な男と、
写真の銀髪青年が同一人物とはまず判らないし、
銀髪青年が何者かは永遠に謎だろう。
もちろん調査する側が地球人の探偵や警察ならば。

「高山には、この男の素性について、
何もわからなかったと俺が報告しておくよ」
それには遊太郎は首を振った。
「いえ。それでは、また高山係長は別の探偵に調べさせたりするでしょう」
「そっか。面倒なヤツに目を付けられたもんだね。
高山って男は、君の弱味を見つけて恋路を邪魔しようとしてるんだな」

恋路と言われて、一瞬遊太郎は顔を曇らせたのを、
敏感な時任は察知したが、何も言わなかった。
地球人との恋愛は難しい。
それは遊太郎より良く経験しているからだろう。

しばらくして、遊太郎が考えを口にした。
「時任さん。僕の、いや、この男の素性を作ってもらえますか?」
「ニセのプロフィール?おやすい御用だけど」
時任が心得たようにニヤリと笑い、遊太郎はメモを取り出した。

「どうせなら、リアリティを持たせた方が納得して、
充分に恨んでくれるかもしれません」
「それ、ヤバくないかな」
彼は遊太郎から渡されたメモを見て肩をすくませたが、
遊太郎はのんびりと答えた。

「大丈夫です。派遣調査員はこういう事態の為に、
ダミーのプロフィールを幾つか持ってるんですよ」
「ヤツは調子にのって、君に電話して呼び出すかもしれないよ?」
「その時は会うことにします」

え?と、時任は飲み干しかけたコーヒーを戻しそうになり、
童顔なサラリーマンをしげしげと眺めた。
何を考えているんだ?と思ったが、
遊太郎は事務的にプロフィールをスラスラと書いて手渡した。


「銀髪男の素性調査をした結果報告を、高山係長にお伝え下さい。
よろしくお願いします。時任さん」


〜第282回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-09-26 14:18

第280回接近遭遇「探偵・時任晴彦、再登場」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

遊太郎の携帯電話が震え、桃子との話が一時中断された。
自販機の向こうで、話をしている遊太郎の背中を睨みつけながら、
桃子はイライラし始めた。

なんて呑気なんだろう?
私情に走る係長の高山が、
探偵を使って遊太郎の素性を調べようと企んでいるのだ。
平気でいられるはずがないのに。
もちろん普段の遊太郎と、
高山が目の敵にする遊太郎は見かけは別人であり、
同一人物だと知れる可能性は少ない。
しかし高山が調査を依頼している銀髪の男と、
遊太郎とが何らかの関係を持っていると思われたら、
ますます遊太郎は高山に目を付けられてしまう。

しばらくして用件が終わったらしい遊太郎が、
桃子のそばに戻って来た。
相変わらずぽややんとして、まるで危機感がない。
桃子は拳を作って、そんな彼の頬をポンと殴る真似をした。

「あたしがどんだけ心配してるかわかってる?」
すると、遊太郎は彼女の拳をふんわりとつかみながら、
はい、と柔らかく頷いた。

「いま、探偵事務所から電話がありました」
「はあ?」

桃子はこれ以上はないというくらい目を大きくして、
彼のネクタイをひっつかんだ。
「ど、どういうこと?もしかして、もうあんたの素性が探偵にバレて……」
「違いますよ、桃子さん」
遊太郎は苦笑しながら桃子の肩に手を置き、
彼女はネクタイから自分の手を離した。
「だって、探偵から呼び出しが来たってことは、
高山の奴が依頼した件の事と関係あるはずよね?」
「さあ、どうなんでしょう」
「どうなんでしょうって。意味わかんない。ちゃんと説明してよ」
「帰ったら説明しますよ」

桃子の焦りをよそに、遊太郎は腕時計をチラッと見た。
今すぐ真相を知りたい桃子は口をパクパクさせたが、
遊太郎はにっこりとスルーして、営業部フロアへ向かって歩き出し、
彼女は奇妙な表情で、のんびりした後ろ姿を見送った。

「ナンなのよっ。遊太郎の馬鹿!」



その夕刻。
仕事を早めに終わらせた遊太郎は、ある雑居ビルの前を訪れていた。
最寄り駅から奥まった場所にあり、ひと気もまばらで、
流行っているとは言い難い探偵事務所は、
二階にひっそりと存在していた。

遊太郎が静かにドアをノックをすると、すぐに中年の男が現れた。
まだ若さを残した愛嬌と渋さを同時に持ち合わせた男である。

「やあ。いらっしゃい。森田遊太郎くん」
「お久しぶりです。時任さん」

昼間に遊太郎に電話をかけて来た探偵とはいうのは、
以前事件絡みで知り合った時任晴彦、その人だった。
時任晴彦は、どうぞと言って狭い事務所の中へ遊太郎を通し、
地味な来客用の椅子に座らせた。

「コーヒーでいいかな。インスタントだけど。
あ、遊太郎くんはコーヒーだめだっけ?」
「頂きます。飲めるようになりましたから」
「そう?良かった。1年以上暮らすと、地球人らしくなるか」

そんな冗談を言いながら、
時任晴彦はコーヒーを遊太郎の前に置き、
早速本題だと話し始めた。

「いやあ、ビックリしたね。
調査の依頼が高山って男から舞い込んで来たときは」
「まさか、時任さんの事務所に依頼していたとは思いませんでした」
「まあ、よその探偵じゃ、絶対君の素性はわからないさ」

係長の高山が雇った探偵が、
偶然にも遊太郎の知人の時任晴彦だったのだ。
遊太郎が異星人だとわかっている時任は、
高山から依頼されて、すぐに遊太郎へ連絡をしてくれたのである。

「で、どうする?なんなら、適当に調査結果出して終わりにするけど。
一応、クライアントだから丁重にね」
時任晴彦がニヤリとしてタバコをふかした。
彼も実はシーマ種族という、
遊太郎よりは地球に永く住み着いている異星人だ。

遊太郎は適当に作られたニセの調査結果を眺め、
どうすれば高山を納得させられるだろうと考えた。


〜第281回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-09-19 14:46

第279回接近遭遇「桃子、怒りが爆発する」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

その日の夕方、桃子は怒り狂っていた。
社員もまばらになった営業一課のフロアで、
宮本清美がミルクコーヒーが入った紙コップを持って来て、
昼間聞いた話を桃子にバラしたからだ。

「高山係長、桃子の彼氏のこと調べてるって。
探偵事務所に依頼したんだって」
「な……」
開いた口がふさがらず、パクパクさせていると、
清美は、ありえないよねえと明らかに面白がりながら続けた。
「森田クン、優しいから桃子には黙っていてくださいって言ってたけど。
なんかさあ、高山係長って、なんでもやり過ぎるから心配じゃん」
「知らせてくれてありがと。清美」

ミルクコーヒーをごくんと飲み干し、紙コップを握りつぶした桃子に、
清美にギョッとされたが構わず立ち上がり、
高山に文句を言うために広い営業部内を歩き始めた。
「ちょ、ちょっと桃子?」
慌てて追いかけようとした清美は、桃子が怒りに燃えた怖い顔つきで、
かなり速いスピードで探し回るのに追いつけなくなった。


許せない。何なの、あの男!
絶対に高山を捕まえて糾弾し、止めさせなければ。
相手が雲の上の社長でも、許してはおけないと柳眉を逆立てる。
遊太郎の、というより本当の彼の事を探偵を雇って調べようとは、
プライバシー侵害を通り越して、人間として軽蔑してしまう。


社内各フロアを探し回りながら、
桃子は夏の終わりに、海で高山に迫られたことを思い出していた。
あのとき遊太郎はレンの姿で高山を殴った。
殴られて当然の事をしでかしておきながら、
高山は逆恨みをしているわけで、厄介この上なかった。

どこを探しても高山の姿はない。
スケジュールボードには、高山の外出先は書かれていないし、
どこかに隠れている事に違いないのだが。

「桃子さん?どうしたんですか」

諦めかけて給湯室の近くまで来たとき、
ふんわりした声がして、桃子は振り向いた。
自販機でミネラルウォーターを買ったばかりの遊太郎が立っている。
髪を振り乱した桃子を見咎め、少し怪訝そうな表情だ。

「遊太郎。高山係長、どこに行ったか知らない?」
つい怒ったように詰問すると、
彼はああ、とにっこりした。
「合コンで知り合った女性とランチを取ると言って出かけました。
行き先を適当に書いておいてくれと頼まれたのに、
僕、うっかり忘れてしまって」
「はあ?」

遊太郎ののんびりした説明に、桃子は思いきり脱力した。
探しても見つからないはずだ。
無駄に時間とエネルギーを使い果たした気がして、
桃子は給湯室になだれ込み、水を汲んで飲み干した。
遊太郎が心配そうにミネラルウォーターを差し出す。

「良かったら、これを飲んでください。まだ開けていませんから」
「……」

桃子は黙って遊太郎からミネラルウォーターを受け取り、
礼も言わずに飲み出した。
半分近く飲んだあと、ボトルを給湯室の棚にドンと置いて、
遊太郎の相変わらずぽややんとした顔を睨みつける。

「遊太郎は、悠長ねえ」
「はい?」
「高山があんたのこと、探偵使って調べてるっていうのに」

遊太郎は、まん丸メガネの奥の子犬のような目をちょっと見開き、
知ってたんですかと苦笑いした。

「大丈夫ですよ。桃子さんが心配しなくても」
「大丈夫じゃないわよ。
探偵っていうのはね、あんたのこと24時間つけ回して、
隠し撮りも聞き込みもしまくるんだよ?」

脱力していたが、怒りを再燃させる桃子に、
遊太郎は戸惑った。
やはり、桃子にまた要らぬ心配をかけさせているからだ。
そこへ、遊太郎の携帯が震えた。
ディスプレイには見知らぬ電話番号が光っていた。


〜第280回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-09-12 11:47

第278回接近遭遇「高山係長のたくらみ再び」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「なンだよ。今月も数字、ぜんぜん伸びねーじゃん?
やる気あんのか。ええ?森田ぁ」

再び始まった一週間。
営業一課では、係長の高山が相変わらず毒舌を吐き、
遊太郎は神妙な顔で黙って聞いていた。
下手に弁解すると執拗に突っ込んで来るし、
かといってあまり無表情では、
バカにしてるのかと噛み付くに決まっている。

「お前、営業に向いてないワ」
突き放したように言い、高山はタバコを灰皿に押し付け、
デスクから立ち上がった。
携帯電話をいじりながら、知り合ったばかりの女たちのアドレス帳を眺める。

「営業数字は変わりばえしねえ下降線。
酒に弱いし口下手だから接待もつまんねえ。
オレさまと違って外見もイケてねえから女にもモテねえ。
サイアクなメガネ野郎だぜ」

言いたい放題で気が済んだのか、ところで、と遊太郎に向き直る。
「斉藤課長には、お前のやる気なさを報告するの止めといてやるから、
お前、こいつ頼まれてくんないかな?」
内ポケットからコンサートチケットを取り出す。
かなり高そうなクラシック音楽のS席だ。
「適当に言って渡してくれ」
「え?誰にですか?」
キョトンと訊き返す遊太郎の頭をクシャクシャにして、
高山はバカとほざいた。
「五十嵐桃子に決まってんだろ。てめえのイトコ」
「はあ」
「普通にオレが渡しても断るだろうからさ、
お前に頼んでんじゃねえか」
「それは、ちょっと……」

高山の意図に遊太郎はようやく気づいて、
チケットを押し返した。
高山は、桃子を遊太郎をダシにうまく誘って、
当日いきなり高山自身が彼女の前に現れるベタな作戦でいたらしい。
遊太郎に断られて高山が鼻を鳴らした。

「んだよ。マジ、使えねえ奴だな」
高山はチケットをポケットにおさめたが、
意外に落胆した様子はなく、
二枚目面を意地悪く歪ませる。

「まあ。クラシックなんざハナから興味ないしな。
それよか面白いこと進めてんだぜ。聞きたいか?」
「面白いこと……」

この男は一体何を考えているのだろう?
いつも桃子に相手にされないので、
ついに強行手段に出ようとしているのか。

「高山係長、何を考えてるんですか」
「ほら、あいつ。五十嵐の男を調べてるんだよ」

あの銀髪野郎、と憎々しげに囁く。
以前海で桃子に迫った際、殴られた恨みを高山は忘れてはいないようだった。
去年の春先に盗撮した写真をまだ携帯のフォルダに残していたのだ。

「こないだ探偵事務所に依頼しといたんだよ。
あいつ、絶対ヤバい野郎だぜ?
たたけば色々ホコリが出るんじゃねえかと睨んでる。
あ、五十嵐には言うなよ?チクったらボコボコだぞ」

楽しげに脅して、高山は盛んにメールを打ちながら、
フロアから出て行った。
眉をわずかにひそめた遊太郎の横に宮本清美がするりと近寄って、
ねえねえと訊いて来た。
清美は桃子と仲の良い同僚だ。

「高山係長、いまヘンな事言ってなかった?
ほら、探偵事務所とかに依頼したって」
「さあ」
さりげなく流そうとするが、
清美はクルクルとよく動く目を遊太郎に向けて囁いた。

「いくら桃子の彼氏が憎いからって、そこまでする?
あれ、相当プライドへし折られた事とかあったんじゃないかな」
「……」

遊太郎が素顔であるレンの姿で高山を殴った一件は、
桃子以外の誰にも知られていない。

「宮本さん」
「ん?」
「いまの話、五十嵐さんには言わないでもらえませんか?
心配してしまうかと思うので」
「そ?森田くん、優しいね」

清美はヒラヒラと手を振って席を移動した。

探偵事務所。
そんなものに動かれたところで、
遊太郎の正体がバレる可能性は皆無だが、
桃子に要らぬ懸念をかけることになるのは本意ではなく、
遊太郎は厄介だなと、ため息をついた。


〜第279回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-09-04 21:48

第277回接近遭遇「宇宙人との結婚を決意」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

桃子の話に、マユミが目を見開いた。
「ええ?なにそれ。その男、桃子と結婚する気ないわけ?」
「マユミ、声が大きいんだけど」

慌てて桃子がたしなめた。
ここは割合静かなカフェで、目立たない席を選んだものの、
女同士の会話は声がつい高くなってしまう。
マユミは咳払いをしてコンパクトを取り出し、
メイクをチェックするフリをしながら、聞き直した。

「今までの話の流れからいくと、
桃子の彼、結婚に関心ないってことだよね?」
「っていうか、ストイック過ぎるんだよね」
「ストイックな外国人?桃子のこと、ホントに好きなの?その男」

桃子はまたしても痛いところをつかれた気がした。
一緒に暮らしていながら、キスしかしていないとは、
今更口に出せなかった。
煮詰まっている表情の桃子へ、マユミがハッキリと言う。

「桃子。既婚者のあたしに相談するより、
彼の気持ちを確かめる方が先なんじゃないの」
「え……」
「特殊な事情がある国際結婚なら、なおさら、
2人の気持ちを一つにしなきゃ、絶対結婚なんか出来ないよ」
「……うん」

マユミに言われる前に、わかりきった事だった。
周りがどうというより、遊太郎と自分の心を固める事が大事なのだ。
だけど、遊太郎は肝心なところでスルリとかわす。
一定の距離を置いて近づきもしなければ、
近寄ろうにも見えないガードを最近は良く感じる。

「なんか、桃子らしくないじゃん」
「へ?」
「ストレートに壁をぶち破るのは、あんたの得意ワザでしょ?」
「……」

マユミに指摘されて、桃子はハッとした。
彼女は普段から考えずにすぐ行動をするタイプだった。
それでダメなら諦めるし、少しでも可能性があるなら、
どんな高いハードルでも、気合いで飛び越える。
もちろん失敗も多かったが、立ち直りも早かった。

「そうだよね。ぶつかってみなきゃわかんないよね。
ありがと、マユミ」
俄然、パワーが湧いて来た桃子は、マユミの手を握った。
目の輝きが違っているのを見たマユミが、手を握り返す。

「そうだよ、桃子。
本気で好きなら、彼を捕まえて放さないこと。
結婚したいなら、ちゃんと話して協力を得ることだよ。
確かに結婚は家同士の問題って言われるけど、
結局はね、やっぱり2人の意志とか気持ち次第なんだから。
苦労して結婚にこぎつけたあたしが言うんだから間違いないよ」

姉御肌のマユミがズバリと断言し、
桃子はモヤモヤしたものが晴れてゆく気持ちになった。
やっぱり友達に相談をして良かった。
でなければ、迷う自分に負けてしまうところだったからだ。
マユミに礼を言い、桃子は立ち上がった。

もちろん、友人のマユミにはたくさんウソをついている。
相手の男は外国人ではなく、地球人ですらない。
しかも異なる星の大変なしがらみというのもあって、
一般的な国際結婚ではないのだ。
後ろめたさはあるが話せぬ事だから仕方がない。

桃子の愛する男は宇宙人。
遠くない未来に、地球を離れてしまうかもしれない。
だからこそ、いまが一番正念場なんだと桃子は固く決心した。
スレ違いばかりで、ちゃんと話して来なかった。
ちゃんと自分たちの現在と未来について、
彼と心を開いて話しあいたい。


むろん桃子はこの時点で、
そう簡単に事が運ばないだろうとは感じていたが、
現実的には分かっていなかった。
遊太郎の心の闇と、遊太郎を取り巻く状況が、
彼女の予想をはるかに越えて、
越えがたい冷たい壁を作り上げている事に。


〜第278回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-08-28 23:04

第276回接近遭遇「結婚したいけど」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

その頃。
遊太郎の留守に彼の花嫁候補だという女に突然訪問され、
いよいよ煮詰まってしまった桃子は、
たまたま連絡がついた友達に会いに出かける事にした。

大学時代に同じゼミ仲間だった女友達で、
周囲の猛反対の末、アメリカ人男性と結婚をし、
一年の半分をアメリカと日本で過ごす生活をしているらしい。
いまは日本に帰って来ていて、気軽に呼び出す事が出来た。


「久しぶり。急にどうしたの?桃子。
思い出してくれて嬉しかったけど」
カフェで待ち合わせた友人、山田マユミは、
桃子よりひとつ年上で、背の高い個性的な女性だった。
桃子はミルクティを頼み、実はと話を切り出した。

「ちょっと、マユミに相談があってさ」
「相談?桃子がまた珍しい」
「うん、マユミなら特殊な恋愛経験とかしてるし、
先輩として参考になるかなあって、ひらめいたの」
「特殊な恋愛経験」

マユミは綺麗に重ねられたマスカラ越しに桃子を意地悪く睨んでみせたので、
桃子はトボけるように頬を軽くかいた。
するとマユミは桃子を面白そうに観察しながら訊いた。

「へえ、桃子って特殊な恋愛してるんだ?」
「と、特殊っていうか」
「あたしみたいに外国人の男?」
「そんなとこ」

まさか宇宙人です、とは口が割けても言えない。
もちろん言ったところで信じては貰えないが、
いまは一般的な参考意見を訊きたかった。

「どうして良いか煮詰まってて」
桃子の唇から本音がポロリと転がり出て、
慌てて運ばれて来たミルクティを飲む。
その様子に洞察力に長けているらしいマユミがふんふんと頷く。

「あたしの時みたいに結婚したい男が外国人だから、
桃子の親に反対されてるとか?」
「ううん。どっちかというと彼側の方がややこしくて」
「ややこしい?どこの国の人?」

適当な答えを用意していなかったので、桃子は少し詰まった。
「えっと、あんまり知られていない国」
「アメリカとかイギリスとかメジャーな国じゃないって意味?
まさかアラブの国のどこかの部族とか」
マユミが冗談混じりに訊くので、桃子はいやいやと手を振った。

「詳しい国は言えないけど。
彼が家の跡取りで、特殊な事情が絡んでて」
「もしかして大金持ちのお坊ちゃま?」
「うーん、御曹司というのかな。家出中だけど」
「そんな御曹司が家を飛び出して日本に逃げて来て、
それで桃子と知り合ったって話?」
「花嫁候補者とかもいるらしいし、大変なんだ」
「なんか、映画みたいだね」

現実的じゃないと呆れたようにマユミが腕を組んだ。
あやしまれているかな?と桃子は心の内で舌を出した。

正確にいうと、遊太郎という男は宇宙人で、
実際は巨大な星団の王子であり、
ある悲惨な事件があって故郷を捨て、
いまは銀河連盟調査員の任務に就き、地球に派遣されている人間だった。
最近になり、王である父親とようやく和解したのだが、
今度は、彼を快くは思っていない政治家集団や、
花嫁候補たちも視界に出現し始めた。
そんな複雑な背景を持つ遊太郎と桃子は本気で、

「結婚したい」

と、思っている。


桃子の曖昧な話から、マユミは頭をひねり推測をした。
「良くはわからないけど、要するに複雑な国の人間と、
桃子は恋愛関係に陥り、結婚したいと思ってるわけだ。
でも相手側からは良い反応は得られない。
まあ、あたしの時も周りに反対されたしさ、
結局はムリやり2人で結婚式挙げちゃったんだけど」

知らない島でね、と笑う。

「彼は?桃子との結婚には積極的?」

痛い質問だ。
桃子は長い溜め息を吐き出した。

「結婚は考えてないみたいなんだ。
誰ともそうはならないって」



〜第277回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-08-22 11:49

第275回接近遭遇「胸に暗黒の穴を抱えて」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「あ、あああああ……っっ!!」

苦悶を押し殺したような声がレンの唇から漏れた。
それでも天才ヒーラーDr.律子の手から放たれた紫色の光は、
容赦なく彼の胸を精査し続けていた。
紫色の光はレーザー光線さながら、
異常を発している部位を的確に探し出したのち、
その部位をホログラムとして、あぶり出す事が出来るのだ。

「思ったより、あの時の後遺症が酷いみたいね」
Dr.律子はレンとの中間に立ち現れたホログラム、
つまり立体映像を、凝視しながら厳しい口調で言った。
その映像は禍々しく負の波動を放つ暗黒の穴だった。

探られたくなかったものを強引にえぐり出されたレンは、
カウンセリングの長椅子に、ぐったりと身を沈ませた。
前髪が乱れて、白磁のような肌がさらに青く透き通り、
浅い呼吸を苦しそうに繰り返す。

「荒っぽい方法を取ってごめんなさい。
でも、こんなに酷い穴だったなんて」

律子は映像をデータ化して手元のモニターに移し替えた。
レンとしては、決まりきった説教など聞きたくないので、
早くこの場から逃れたかったが、
残念ながら身体が鉛のように重く、動けない。

「あなたは隠したかったかもしれないけど」
続けてDr.律子はズバリと言い当てる。
「この穴、あの隕石のでしょ?
他の派遣調査員が受けている定期的ヒーリングを、
サボっていた理由の一つが、なんとなくわかったわ」
「……」

天才的ヒーラーの天野律子に誤魔化しは効かないようだ。

確かに数ヶ月前レンは、
マイナスエネルギーの塊である隕石の欠片を、
やむなく胸に受けてしまった事件に遭遇していた。
あの特殊な隕石は、どんな微細な破片であっても毒々しい磁場を持ち、
超人的能力者のレンにとって、唯一の弱点だった。

「それにしても、呆れた。
普通、自分のエネルギー体に穴を開けたままで、
平気で生活していられると思う?
今まで時々、強いめまいとか、胸の痛みがあったはずだけど」
「さあ……気づきませんでした」

レンは、ややかすれ気味の声で、まるで他人事のように答えた。
すると律子が見透かし気味に、あらそうと微笑んで、
サラリと命令する。

「とにかく、大穴が開いている事実が私にバレたんだから、
いいかげん観念して、一週間に一度は私のクリニックへ来ること。
いいわね。レン?」
「一週間に一度?」
「あら、不服そうね。
本当はメディカルセンターに2ヶ月くらいは縛り付けたいくらいなのよ。
嫌なら、桃子さんにこの事実を教えて、
私の元へ通うように、あなたを説得して貰った方が良いかしら?」
「……今度は脅迫ですか」

レンは不機嫌そうに言い、立ち上がろうとしたが、
まだ心臓辺りに圧迫を感じ、
諦めて長椅子に深く寄りかかって目を閉じた。
この時がチャンスとばかり、律子が声を柔らかく落とし、
諭すように言う。

「ねえ、レン。
あなたは優れた身体能力の持ち主だけど、
自分を粗末に扱い過ぎよ。
もう、あなた1人の体じゃないって事を自覚しないとね」
「……」

その意味がすぐには理解できずに黙っていると、
律子が鈍感ねとため息をついて腕を組む。

「あなたには桃子さんがいるじゃないの。
ちょっと地球的表現だけど、
桃子さんの為に、もう少し自分を大切にしなきゃ」

しばらくして、レンは重たげに瞼を開けた。
あぶり出された負のエネルギーの名残か、
青灰色の瞳に一瞬、赤い光がよぎって消えた。

「……僕のことは、彼女に、何の関係もない」


〜第276回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-08-15 16:52

第274回接近遭遇「苦手なヒーリングタイム」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「急用ですか。キャプテン」

森田遊太郎、いや、いま素顔に戻っているレンは、
中枢コントロールセンターへ入室した。

ここは月の裏側に浮遊する銀河連盟ステーション。
センターの流線型デスクで上司ロータスは、
「やあ、レン」
と、いつものように穏やかに彼を迎えた。
ロータスのそばには、
真っ赤な服に身を包んだ美女もいて、
呼ばれた理由を察知したレンは、形の良い眉をわずかに潜める。

「あら、露骨に嫌そうな顔をするもんじゃないわ。レン」
美女は冗談半分に肩をすくませた。
彼女の通り名は天野律子。
天才ヒーラーであるが、地上では女医の顔を持ち、
派遣調査員の健康管理を一任されている。
ハリウッド系美女の外見にそぐわずオープンでサッパリした性格だ。

ロータスが苦笑いを作り、自分の部下へ説明した。
「察しの通り、君を強引に呼んだのは、
ヒーリングをしっかりと受けてもらう為だ」
「ヒーリング」
「ああ。派遣調査員メンバーは全員、
少なくとも2週間に一度、
Dr.律子の地上クリニックへ顔を出すという規則がある。
それをきれいに無視して、サボっているのは君ぐらいだからね」
「……」

その通りなので、口ごたえはしなかった。
レンの頬にかかる長めの前髪が、うまく表情を隠してはいるが、
あまり気が進まない雰囲気なのはロータスにはバレている。

「調査員は多忙で時間的余裕はない。面倒なのはよくわかるが」
と、ロータスがフォローをしかけると、Dr.律子がピシャリと言った。
「若い男って、ホント、面倒くさがりなんだから。
でも、それは職務怠慢。
今日こそは逃さないから覚悟なさい。レン」

ようやく捕まえた不良生徒を前に勝ち誇った担任教師のように、
Dr.律子が得意げに微笑み、
ロータスは、観念しろと彼に片目を瞑って見せた。

レンにとってみれば、
定期的に皆が受診するヒーリングなど正直なところ面倒で、
地球人的表現を使えば、「ウザい」ものだった。
もちろん、環境が劣悪な地球に身を置く以上、
クリーンな状態へ波動調整をしなければならないし、
汚染に伴う原始的なウィルスや、
人々の吐き出すマイナス想念もバカには出来ない事も承知している。
しかし孤独に慣れた彼には、
他人にあれこれ心配されたりする事が苦手だった。


「聞いてるの?レン」
ふと気づくと、Dr.律子が美しい眉を釣り上げていた。
メディカルセンターへ渋々連れて行かれたレンは、
ヒーリングポッドで横になり、トータル的な波動測定をされたのち、
別室のカウンセリングルームへ呼び出され、
精査された数値に対する指示を仰いでいた。

「思った通り、全身あちこち、環境汚染による波動の乱れがあるわ。
ちゃんと除去しておいたけど、
ヒーリングを怠けると、そのうち痛い目にあうわよ。わかってる?」
まるで授業をサボる常習犯に向かって、
教師が説教をするかのように、
手元のモニターを磨かれた美しい指でトントンと叩く。
レンは興味なさそうに眺めるだけだ。
ヒーリングなど早く終わらせて、
サイキックジムで射撃訓練をしたかった。
そんな彼へ、女医がいつになく厳しい顔を向ける。

「ちょっと、いい?」
「え?」
「手荒だけど我慢して」

そう断るなり、Dr.律子の魔法の手が、彼の胸にかざされた。
その瞬間、紫色の光がレンの胸を貫き、彼は低く呻いた。

「……っ!」

紫色の放射線によって、レンの胸から飛び出したホログラムは、
禍々しく穿った暗黒の穴だった。


〜第275回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-08-12 11:53

第273回接近遭遇「宇宙人とのラブラブは障害だらけ」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「桃子さん。レン王子様を好きなら、彼を手放してくださいません?」

花嫁候補だという宇宙人美女エリカのセリフに、
桃子は一瞬固まってしまった。
しかしこんなところで黙ってしまう性格ではないので、
ハッキリ言い返した。

「あのさ、手放すってなに?
遊太郎はあんたの所有物じゃないでしょ?」
「はい?」

桃子のような人種に慣れていないお嬢様が一瞬ひるむ。
かまうもんか。
いかにも相手は上品な風情だが、失礼にもほどがある。
売られたケンカは買ってやらなければ。

「エリカさんとやら。花嫁候補が何サマか知らないけど、
あたしを品定めする為に上がり込むなんて超失礼じゃん。
それにさ、遊太郎がソリュート星に帰らないで、
派遣調査員の仕事を続けてるのだって、本人の意志でしょう。
あたしが束縛してるわけじゃない。
あいつはね、どんなにきつくたって、地球にいたいから居るんだよ。
そんな相手の気持ちもわからないで、花嫁候補なの?
さあ。あたしが、どんなひどい女かわかったんなら、
さっさと自分の星に帰れば?」

お帰りはあっちと、玄関の方を指差すと、
エリカは信じられないといった半泣きの顔で飛び出した。
驚いてあとを追おうとした兄のサーフィスだが、
クルリと桃子に向き直ってこう言った。

「ボクの可愛い大切な妹を泣かせたね」
「謝らないわよ、あたし」
「だろうね」
「え?」

てっきり、彼独特の嫌みを言われるかと思い込んでいた桃子は、
サーフィスがニヤリと笑うのを見て調子が狂った。
彼は腕組みをして得意げに説明する。


「実はね。君たちの関係がなかなかラブラブにならないから、
ちょっとイタズラしたかったんだよ」
「ラブラブって」

よくそんな日本語を知っているものだ。
呆れ半分に感心していると、彼がふっと真顔でささやいた。
「妹には悪いけど、花嫁候補が何人いても、
桃子さんは折れないのはわかっていたしね。
でも、勝負はこれからだから。覚悟しておいたほうがいいよ」
「勝負?」
「君たちのラブラブは、まだまだ障害だらけだってことさ。
では、地球のレディ。ごきげんよう」

サーフィスはウィンクを返して、
ヒラヒラと手を振りながら帰ってしまった。
何しに来たんだ?あのセレブ宇宙人。
いつも他人の都合などお構いなしに訪問するので、
桃子はぶつぶつ文句をこぼしながら、
飲まれなかった紅茶のカップを片付け始めた。

はあ、とため息をついて昼前なのに缶ビールを開ける。
ソファにどっかり座り込むと、なんとなく落ち着いて来た。

きっとサーフィスは遊太郎の自称親友だから、
彼なりに心配はしてるのだろう。
遊太郎が、地球人のフリをして生活する様子に心配し、
ややこしい事情がたくさんあるらしい遊太郎の母星のことや、
いっこうに進展しない遊太郎と桃子の関係も、
多少じれったいと考えているのかもしれない。

「ラブラブか」

彼らが訪問する前まで、
遊太郎に結婚しようとプロポーズしてみたらどうだろう?と、
珍しく浮ついた気分を楽しんでいたのに、見事にふっ飛んでしまった。

サーフィスが釘を差したように、
自分たちの間には障害というより、
普通のカップルでは考えなくても良いハードルがあると思う。

地球人の桃子が愛する彼は、宇宙人のレンだから。

もちろん、イトコの森田遊太郎のDNAをコピーして、
戸籍上も地球人だから、表向きな結婚には問題ない。
両親も最初はイトコ同士だからと反対したが、
いまは応援してくれて、どちらかというと桃子より、その気である。

しかし、遊太郎は前にこう言った。

「僕は誰とも、そうはなりません」

つまり、結婚とか深く誰かと交流することを、
出来るだけ避けたいスタンスでいるらしい。
桃子は携帯電話を取り出し、
メールも寄越さない遊太郎のアドレスをむっつりといつまでも眺めていた。


〜第274回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-08-08 12:48

第272回接近遭遇「ライバルとのベタな展開」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

マンションに訪れた外国人風美女は、
眩しい金色の長い髪、ガラス玉のようなグリーンアイの若い女だった。

「やあ、桃子さん。彼女はエリカ。ボクの自慢の妹さ」

勝手にリビングに上がりこんだサーフィスが、
美女の傍らで得意げに紹介するので、
紅茶を淹れながら、桃子はああと納得した。
確かに彼女はどことなく雰囲気が似ていて、
2人が座っているだけで、場違いな華やかさが演出される。

「遊太郎なら、残念ながら仕事でいないけど?」
つい仏頂面を向けてしまうと、エリカが桃子に微笑んだ。
いかにも愛想笑いといった感じで。

「わたくし、ずっと桃子さんに会いたくて、
無理を言って兄に連れて来てもらったんですわ」
お嬢様は、なかなか流暢な日本語を操った。
「あたしに会いたかった?」
なんとなく嫌な予感はしたものの、深刻ぶるのは避けたいので、
桃子はことさらトボケたように訊いた。
すると、人形のように取り澄ましたエリカは、
桃子を上から下までじっくりと観察し、安心したかのようにつぶやいた。

「良かった」
「何が?」
「レン王子様がなかなか地球から帰らないので、
同居なさっている桃子さんという方が、
どんなに素敵な女性なのだろうと胸がつぶれそうに悩んだんです。
でも、あなたをひと目見て、すごく安心しました」

それはどういう意味だ?
口をパクパクさせていると、セレブな兄はこう言った。

「エリカはね、レンの花嫁候補の1人なんだよ」
「えっ?」

遊太郎の花嫁候補?
桃子の苦いものを呑み込んだような表情を見て、
サーフィスは妙なフォローをした。
「大丈夫だよ。地球の日本と違ってわがソリュート星は、
望むだけ花嫁を迎えることが出来る。
だから、桃子さんが対象にならないとは限らない。
まあ、周りが認めたらの話だけどね」
「はあ?」
桃子はサーフィスを恐ろしい目で睨みつけたが、
空気を読まない彼は気にする風でもなく、エリカに優しく言った。

「さあ、これで気は済んだだろう?
レンは、可愛いエリカだけを愛するようになる。
何も心配しなくて良いんだよ」
「ええ。お兄様。わたくしも自信を取り戻しました。
レン王子様は、地球人女性が単に珍しいだけなのかもしれないと」
「ははは。確かに桃子さんは飽きないからね」

……ちょっと待て。
桃子は紅茶のポットを2人にぶちまけたかったが、
地球人は乱暴だと思われたくなかったので、
歯を噛みしめて低い声で話した。

「前から花嫁候補なんて制度があるって聞いてたから、
別にいまさら驚かないけど。
本人の遊太郎がその気がなきゃ、
何人の花嫁候補がいようが関係ないんじゃない?
母星なんかに帰らないって言ってたし」

一瞬しんとした。
人形じみたエリカの表情がわずかに固くなったが、
サーフィスが人差し指を振って冗談を言うように否定した。

「いや。レンは、きっとソリュート星に帰る。
派遣調査員なんて地味で苦労ばかりの仕事に、
疲れ果ててるからね」
「疲れ果ててる?」
「ずいぶんムリをしているじゃないか。
これほど汚れた惑星だ。
ボクたちが旅行に来るのも危険なのに、
地球人の肉体を纏い、生活するなんて拷問以外の何ものでもないさ。
なのに、君はそばにレンを置いて、わがまま放題して来た。
彼を束縛してるようなもんだよね?」
「束縛……」

すぐに言い返す言葉が見からなかった。
確かに遊太郎は、故郷と環境の違い過ぎる地球で、
ろくに休まずに不法侵入者を取り締まってる。
さらに、桃子が怒っても文句ひとつ言わず、
黙々と家事もこなしているし、
地球人サラリーマンとしての仕事も力を抜かないのだ。
疲れないはずはない。
縛りつけていると言われたら、胸が痛む。

黙ってしまった桃子へ、エリカが慈悲深く微笑んだ。
「桃子さん、レン王子様を好きなら、彼を手放してくださいません?」


〜第273回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-08-03 22:15

第271回接近遭遇「結婚しようよ」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「結婚しようよ。遊太郎」

桃子は遊太郎が帰宅するのを待ってプロポーズをした。
思いきって口にした時、彼女の心臓はばくばくと波打った。
遊太郎はキョトンとした顔で、
意味を探すように彼女を見つめていたが、
やがて、にっこりして答えた。

「いいですよ。結婚しましょう。桃子さん」
「ホント?やった!でも知ってる?
普通プロポーズって男子からするもんだよ」
「そうなんですか」
「でも、待ちきれなくて先にあたしが言っちゃったから、いい。
でも指輪は、ちょうだいね」
「指輪、ですか?」
「やっぱ知らないんだ。
地球じゃあ、エンゲージリングっていっていうのがあるわけ」
「それは勉強不足でした。すぐに用意します」

遊太郎は鞄を手にして出て行こうとするので、
そんなに急がなくてもと桃子は苦笑し、遊太郎にしがみついた。

「一緒に選んで。指輪」
「はい」

甘い甘いキス。
桃子は有頂天になり、遊太郎を痛いほど抱き締めた。
幸せの絶頂だった。
次の瞬間、床に転がり落るまでは。

「っててて……」
桃子は枕を抱き締めて、ベッドから落ちたのだ。
なんだ、夢か。
すごくいいとこだったのに。

激しい落胆とぶつけた額の痛さで顔をしかめる。
時計を見ると日曜日の昼前だった。
リビングに行くと、朝食がきちんとテーブルに並べられ、
遊太郎は出かけたあとだった。
よく寝ている桃子を起こさず、そうっと仕事に出たのだろう。
もちろん日曜日なので、仕事というのは彼の本業の方だが。

「現実だったら、今頃は遊太郎とリングを買いに出かけていたのに」

パジャマのまま、ソファにどっかり腰を下ろし、
桃子はいま見た楽しい夢をしばらく反芻し、ニヤニヤした。
そうだ。正夢にすればいい。
のんびりした遊太郎からプロポーズを待ったって、
いつになるやら見当もつかない。
それに仕事一筋の彼のボキャブラリーには、
プロポーズとかないんじゃないだろうか。
ここは、年上の自分がしっかりリードするべきだろう。

そうと決まったら、やることは情報収集だ。
朝食を食べたらパソコンで結婚情報をチェックしてみよう。
もう結婚している友人に連絡を取って話を聞いてみるのもいいかも。

オレンジジュースをごくごくと飲み、野菜のサンドイッチを食べながら、
桃子はふと思った。
神崎部長に相談してみようか。
なんといっても、表でも裏でも、
遊太郎をよく知る上司なのだから。
それに時々遊びに来るカミラにも相談しよう。
女同士だし、いちおう彼の幼なじみ。
結婚するにはどうすればいいか。知恵を借りるのだ。

ひとり舞い上がっているとインターホンが鳴り響いた。
宅急便かな?
まさか本当にカミラの訪問か。
急いでルームウェアに着替え、髪を束ねた桃子は、
玄関の向こうに立つ見知らぬ訪問客にギョッとした。

にこりともしない外国人風美女。
その横には遊太郎の親友だというサーフィス。
この男、今度は一体誰を連れて来たわけ?
追い返そうと思ったが、騒ぎになると他の住人に見咎められてしまう。
用件だけ聞いたら、遊太郎は留守だと言って早々に帰って貰おう。

「どうぞ」

桃子は仏頂面をなんとか引っ込めて、
場違いに華やかな訪問客たちを部屋の中に入れた。


〜第272回をお楽しみに♪〜

↑ 少し内容を訂正させていただきました。
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# by yu-kawahara115 | 2010-07-25 13:45

第270回接近遭遇「彼氏に料理を教わる彼女」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

翌日の土曜日。
遊太郎と桃子は近所のホームセンターに行った。
桃子の世にも破壊的な料理で、
フライパンや片手鍋が使いものにならなくなった為だ。

桃子はいつになく上機嫌で物色し始めた。
何故なら、お互いスレ違い生活が続いていたし、
これからは遊太郎が桃子に調理を教えるという。
それは必然的に2人きりの時間が作られるという事で、
桃子は素直に嬉しかった。
もちろん調理器具を駄目にしたのは、
そんな下心があったからではなかったのだが。

「これなら、桃子さんでも使いやすいですね」

キッチンフロアで、遊太郎はシンプルで丈夫な片手鍋とフライパン、
菜箸やフライ返しなどを選んだ。
桃子が無邪気に口を挟む。

「ねえ、どうせなからペアでトレーとかそろえない?」
「桃子さんのだけでいいと思います」
「え、なんでよ?遊太郎のは?」
「僕はあまり食べないし、もったいないですよ」

遊太郎は無駄遣いはしないタイプだ。
どんぶり勘定の桃子とは対照的なので、もったいないと言われて彼女はちょっとむくれた。

確かに、遊太郎は作るだけで食事はあまりしない。
昼間はサラリーマンとして怪しまれないように、
外回り先で誰かと食べているようだが、
1日一回の食事だけで24時間フルで動けるものだろうか。
遊太郎の正体が地球人でないのはわかっていても、
桃子にはほんの少し不満だった。
お揃いの食器を2人で選び、毎日一緒に食事をしたかった。


マンションに帰り、
早速簡単なものから挑戦することになった桃子は豪語した。
「オムライスぐらいなら、あたしにだって出来るわよ」
しかし卵の割り方ひとつから基礎が出来ていなくて、
遊太郎にやんわり指摘された。
「桃子さん。卵は力まかせだと殻が中に入りやすいですよ」
「割ればいいんでしょ。割れば」

ガンガン割ろうとする桃子の腕を遊太郎が軽く掴んだ。
「素材は丁寧に扱うと、美味しく出来上がるんですよ」
「悪かったわね。耳に痛いんだけど?どうせ、あたしはガサツよ」
「じゃあ、ちょっと見ててくださいね」

そう言った遊太郎は、器用に片手で卵を割り始めた。
感心して真似したが、これはコツを掴むまでしばらく練習が必要だと痛感した。
彼は続いてキャベツの千切りを教えた。
桃子の切ったキャベツは厚さが1センチ近くあり、
とても千切りには程遠い。

「キャベツなんて添え物じゃん。
テキトーに切って並べりゃいいんじゃないの?」
面倒くさいと文句を言い出す桃子に、遊太郎は少し考えていたが、
スッと彼女の背後に回り、包丁を持つ手に自分のそれを添えた。
一瞬、桃子はドキッとした。

「感覚を覚えれば、桃子さんなら上手に出来ますよ」
遊太郎はさりげなくフォローをしながら、
一緒に包丁を動かしてくれた。
遊太郎の体温を全身に感じる。
桃子は黙って従いながら、
料理が上手な女性になりたいと思い始めた。
そうしたら、遊太郎は喜んでくれるかもしれないし、
もしかしたら、お嫁さんに……

ふと、桃子は戸惑った。
自分はいま何を考えていたのだろう。
思わず手の動きが止まって、遊太郎が驚いたように訊いた。

「疲れましたか?桃子さん」
「あ。ううん。大丈夫」

桃子はぎこちなく答え、再び一生懸命キャベツを切る練習に集中した。
最初と違っていくらか細かく切れていき、達成感が味わえた。

そうか。
あたし、やっぱり本音は遊太郎のお嫁さんになりたいんだ。
ずっと、ずっと一緒に暮らしたい。

遊太郎に調理を教えてもらう、穏やかな時間の中で、
桃子は遊太郎との結婚したいという想いが、
どんどん高まっていくのを感じていた。


〜第271回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-07-18 14:33

第269回接近遭遇「桃子のクッキングは破壊的」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

侵入者を確保したのち、
遊太郎は銀河連盟パトロール隊員に引き渡し、
遊太郎と薬師丸は禁止区域の小学校を離れた。
表通りをかなり歩いたところで、薬師丸は意を決したように口を開いた。

「……あの、森田さん」
「はい」
「昼間、派遣調査員をやる自信がないって、
僕、こぼしてしまいましたが」
「ええ」
「その。……もう少しだけ考えてみようかと思い始めています」
「薬師丸さん……」

遊太郎の安堵したような表情に、
薬師丸は多少赤くなり、急いで付け加えた。

「別に、あなたの仕事のやり方が好きになったわけじゃありませんよ。
逃げる気だと思われたくないだけです。
いまの現実に向き合う勇気は大切ですから」

現実から逃げても、自分からは逃げられない。

先刻、遊太郎が侵入者に言った言葉が、薬師丸の誇りを呼び戻したようだ。
素直に認めたくなくて憎まれ口を叩く彼を、
遊太郎は好ましく感じた。

「薬師丸さんなら、きっと良い派遣調査員になれると思います」
「お世辞はいいです」
ちょっと鼻じらむ薬師丸へ、
遊太郎は少しだけ声のトーンを落とした。
まるで独り言のように。

「……僕も、自分から逃げたいといつも思ってます」
「え?」
「でも、結局逃げられない。
さっきの侵入者に、偉そうな事をいう資格なんて、
本当は、僕にはありません」
「森田さん?」

怪訝そうな顔をする薬師丸だったが、遊太郎はいつものふんわりした表情に戻った。
「何でもないです。会社に帰りましょうか。
そろそろ高山係長も帰社されている時間ですから」

既に陽が傾きかけていた。
淡いオレンジ色に染まってゆく街を、
遊太郎と薬師丸は肩を並べて歩いて行った。


その夕刻。
マンションに帰った遊太郎は、
ドアの外まで漂っている異様な匂いに気づき、
靴もそこそこに脱ぎ捨て、慌ててキッチンへ走り込んだ。
「桃子さん?」
「来たらコロスからね。遊太郎」
振り返りもせず物騒なセリフを吐いた桃子は、
キッチンで何かを必死に作っていた。
来るなと言われても、
遊太郎は彼女の背後に立って、
その惨状に目を大きく見開いてしまう。

「もうっ!来ちゃダメって言ったじゃん」
思いきりむくれる桃子に構わず、
遊太郎はスーツの上着を脱ぎ、シャツの袖を捲り上げ、
穴が開いた鍋や炭のようなフライパンに手を伸ばした。

「いったい何を作ろうとしてたんですか?桃子さん」
「肉焼いて煮物に挑戦しただけ。
ふん。あたしだって料理くらいしたくなるんだからね」

貸してよ、とフライパンを取り返そうとする桃子だが、
ひどい焦げ付きは自分の手に負えないと感じているのか、
「僕に任せてください。桃子さんはソファで休んで」
と遊太郎に言われてしまうと、ふてくされてキッチンから離れ、
リビングにあるオレンジ色のソファにどっかり座り込んだ。

「あ〜あ。電子レンジとかインスタントラーメンなら簡単なのに」
「インスタントは体に良くないですよ」
「だってさあ、煮たり焼いたりすんの難しいんだもん」
「だから、食事は今まで通り僕が作りますから、
桃子さんは何も心配しなくて良いんです」
「それが、ヤなの。あたしは」

彼女は腕を組んで立ち上がった。

「あんたが家事をやってくれてるのは助かるよ?
けどさ。このままじゃ、あたし、な〜んにも出来ない女になりそうで、
すっごく焦ったりするわけよ。わかる?26の女のプライド」
「はあ」

キッチンの掃除をしながら遊太郎は考えた。
正直なところ、桃子の調理は破壊的だ。
調理器具が全部使いものにならなくなる上に、
そのうちに火事かと勘違いされ、
マンションの他の住人から通報をされ兼ねない。

「教えます」
「へ?」
「僕が桃子さんに少しずつ調理を教えますから」

クッキングコーチを宣言する遊太郎に、桃子の顔が柔らかくふくらんだ。

「うん!」


〜第270回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-07-11 12:48

第268回接近遭遇「戦争を放棄した者」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「あなたは、オメガ星系惑星間戦争の逃亡者ですね?」

体育館の中。
遊太郎の投げた言葉に男は目を見開いた。
武器も壊されたいま、観念したかのように床へざっと座り込む。

「よくわかったな。派遣調査員。
いかにも、俺はオメガ星系の戦場から逃亡した男だ」

遊太郎の後ろで、緊張感の解けた息を吐き出す薬師丸の気配がした。
遊太郎はそんな彼に言う。
「薬師丸さん。銀河連盟パトロールは、まだ呼ばないでください」
「はあ?捕まえたんならさっさと引き渡してしまえばいいじゃないですか」
「事情をまず訊かなければ」
「事情?戦争が嫌だから、逃げただけですよね」

口を尖らせる薬師丸へ、男が挑みかかるように身じろいだ。
「なんだと?」

その迫力に薬師丸はちょっと怯みながらも、
相手がもう武器を持たない丸腰だとわかると増長する。
「だいたい惑星間戦争なんかに身を置く人間は、
物騒な人間ばっかりだと思いますよ。話なんか訊くだけムダです」
すると遊太郎がはにかんだように微笑し、サラッと言った。

「あの、すみません。僕も前は傭兵だったんですが」
「え」

これには男も、はっとした表情をしたが、
のんびりした遊太郎の風情を見て苛立つように怒鳴った。
「いい加減なことを言うな。お前みたいなのが傭兵であるはずがない」
薬師丸もそれには同感だった。
「森田さん、説得力のない冗談はやめて下さい。
惑星間戦争の傭兵なんていったら、無法者集団……」
言いかけて薬師丸ははた、と思い返した。
いや、あり得るかもしれない。
遊太郎は、茫洋として見えるが、
別人の素顔を持つ特殊能力者である事を思い起こしたからだ。

薬師丸の思惑をよそに、遊太郎は天気の話でもするように答えた。
「もう2年ほど前になりますが、
オメガ星系惑星間戦争では戦闘機のパイロットをしていました」
すると男が改めて遊太郎を凝視し、まだ疑い半分で訊いた。
「本当なのか?信じられん。
そんな奴がなんでまた派遣調査員になっている」
「はい。味方の部隊と離散してしまって、なりゆきで」
「なりゆき?バカな」

男は吐き捨てるように言い、警戒を緩めなかったが、
やがて精悍な顔が人間らしく疲れに彩られていった。

「もういい。正直に答えてやろう。
戦争から逃げたと言われるのは癪だが、
互いの利権争いのための長期戦争に嫌気がさして、
銀河連盟の貨物輸送艇に潜んだのは事実。
たどり着いた惑星が地球だっただけさ」

それを聞いた遊太郎が、察したかのように頷いた。
「確かに長い戦争ですから、お気持ちはわかります」
「わかる?そんなことを言って、見逃しはしないんだろう?」
「それが僕の仕事ですから」

ほらみろ、と斜め下に視線を落とす男に、
遊太郎はゆっくり近づいた。
そしてしゃがみ込んで彼の目をじっと見る。

「どこに逃げ込んでも、自分からは逃げられません」
「……」
「あなたは、現実と向き合うのが怖くて、こんな見知らぬ惑星の、
小学校の体育館に隠れて、答えを先延ばしにしているだけなんです。
いずれ自分の気持ちに決着をつけなければならない」

噛み砕くように、ゆっくり諭す遊太郎に、
男ばかりか離れて立っている薬師丸も考えさせられるものがあった。

確かに薬師丸自身も逃げようとしている。
派遣調査員の仕事が自分には手に余ると言って、
やる前から逃避を決め込み、
遊太郎に八つ当たりしていただけなのかもしれない。

「自分からは逃げられない、か」

男が、淡々と遊太郎の言葉を繰り返し、
きっぱりした態度で立ち上がった。
「あんたのセリフは胸に痛い。でもおかげでサッパリした。
俺を捕まえてくれ」
「いいんですね?」
「ああ」

男の決意に遊太郎は頷き、
背後の薬師丸に銀河連盟パトロール隊を呼ぶように促した。


〜第268回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-07-04 12:42

第267回接近遭遇「体育館に潜む逃亡者」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

遊太郎は、工事中のテント張り下を丹念に見て歩き、
焦げた金属の一部を見つけ出した。
金属とは言っても、それが地球上にはないものだという事は、
薬師丸でもわかった。

「それ、宇宙船の一部か何かだったりしませんか?森田さん」
「さあ……」

遊太郎は曖昧に答え、ハンカチで金属を包んで鞄の中に入れた。
そして工事現場から離れた。

「こんな田舎の惑星を好んで侵入するのは、なぜなんでしょうか」
先刻まで遊太郎に対して憤っていた薬師丸は、
侵入者にすっかり気を取られて質問をした。
遊太郎はのんびりと答える。

「犯罪を犯しやすい場所という理由もありますが、
逃亡するにしても適当な星だからかもしれません」
「逃亡って、何から」
「戦争、とかですね」
「戦争?」
「惑星間宇宙戦争です」
「はあ」

ピンと来ないのか、少し呆けた表情の薬師丸をよそに、
遊太郎は工事現場の裏側に視線を向けた。
少子化が進んだせいで閉鎖されたらしい小さな小学校がある。
彼はなにげに柵を超え、グラウンドに入り込んだ。
その奥に忘れ去られたように建つ体育館へ向かって行く。

「も、森田さん、だめですって。
立入り禁止区域ですよ?」
何やってんですかと呆れた薬師丸は、
既に体育館の入口を開けてしまった遊太郎に追いついた。
カビ臭く、むっとする重苦しい空気が2人を取り巻く。
物置と化した内部は、まだ使えそうなバスケットボールや、
ホコリにまみれたマットなどの体操用具が無造作に積み重ねられていた。

遊太郎は用具を超えながら奥へ進み、
マットの陰に隠れたある気配を感じて声をかけた。

「そこに居るのは誰ですか?」

ギョッとしたのは薬師丸だった。
まさか彼は、さっきの金属破片だけで、侵入者をもう特定していたのだろうか。

しばらくして、マットの山の向こうから人影が現れた。
また昨夜のような凶悪なエイリアンかと警戒した薬師丸は、
それが普通の人間の男らしいと知り、少しだけホッとした。
浅黒い精悍な顔をした男で、
ところどころ焦げたダークグリーンの服に全身が覆われている。
男は大人しく出て来たフリをして、スッと光線銃を突きつけた。

「……お前たちは派遣調査員だな?」

思わず息を呑む薬師丸と正反対に、遊太郎はにっこりして答えた。
「はい。よくわかりましたね。僕は森田遊太郎といいます。
隠れていたところを申し訳ありませんが、
あなたを見つけてしまいました」

男は鈍色に光る金属の銃を、ピタリと遊太郎の童顔に突きつけ、
背後に立つ薬師丸へ低い声で脅した。

「おい。そこの。
援護を呼ぶつもりだろうが、
そんなことをしたら、こいつの頭が吹っ飛ぶぞ」
「……」

薬師丸は冷や汗をかいた。
この侵入者らしき男は、派遣調査員に対して落ち着き払っていて、
薬師丸が一歩でも動こうものなら、
冗談ではなく平然と遊太郎を撃ち殺す迫力を持っていた。
ところが、逃げ場がないはずの遊太郎本人は、
おそろしく緊張感のない素朴な質問をした。

「そのスーツはオメガ星系の戦闘部隊のものでしたっけ」
「なに?」

遊太郎はふんわりと笑って、鼻先にある銃をスッと掴んだ。
次の瞬間、金属で出来た銃がボロボロと壊れてゆく。
男も薬師丸もただ絶句した。

「な、何だ、お前……!」

男は背中に隠したもう一丁の銃を抜こうとしたが、
金縛りにあったように動けなくなった。
遊太郎がゆっくりと訊いた。

「あなたはオメガ星系の宇宙戦争からの逃亡者ですね?」


〜第268回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-06-27 13:19

第266回接近遭遇「パトロールをごいっしょに」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「森田さん。内心では僕が功を焦っているのを、
笑っていたのではありませんか?」

薬師丸の言葉を受けて遊太郎は戸惑い、首を振った。
「なぜそんなことを。薬師丸さんはいつも一生懸命で」
「慰めはいいんですよ。
僕は大口を叩いたくせに、現場では怯えていただけだった。
でも森田さんは何のためらいもなく、たった1人で凶悪な侵入者をあっさり片付けた。
僕ははっきり言って悔しくて惨めだった。
一瞬疑いましたよ。
実は森田さんは、やる気なさそうな演技をしていただけで、
陰で僕を笑ってたんじゃないかって」
「薬師丸さん……」
「とにかく、僕は自信をなくしました。研修はムダに終わったという事です」

何を言っても、いまの薬師丸には聞き入れてはもらえないだろう。
遊太郎はそう判断をして、ベンチから立ち上がった。

「薬師丸さん」
「まだ何か?」
ブスッとした表情で食べ終わったホットドッグの紙袋を丸める薬師丸へ、
遊太郎は手帳を見ながら提案した。

「今日時間あるようなら、これから見回りに付き合ってもらえませんか?」
「見回りって業務パトロールですか」
「はい。今日はあの騒ぎで高山係長もいませんし、
担当エリアをパトロールしたいと思っていたんです」

薬師丸の研修期間は昨日で終わっている。
地球上のどこかへ派遣先が決まるまでは、自由なのだ。
気乗りはしないが、見物がてら彼は遊太郎に付き合う事に同意した。

「わかりました」
「ありがとうございます」

遊太郎はにっこりして携帯電話を取り出した。
帰社時間の変更を会社に伝えてから、薬師丸とゆっくり歩き出した。

業務パトロールとは、表向き保険の営業マンをしながら、
遊太郎がさりげなくアンテナを張り巡らして、
無断侵入している地球人外知的生命体、
つまりエイリアンの気配を捕捉し、
場合によっては摘発する仕事の事である。
特に何もなくとも、遊太郎は担当エリア内に新しく出来たビルや閉店した店、
工事現場周辺や抜け道などもこまめにチェックしていた。

「工事現場なんかも見ておくんですか?」
薬師丸は無駄なんじゃないかと気だるそうに質問した。
何故なら工事中のテント張りは散在しており、
やかましい騒音に慣れていない薬師丸にとっては苦手だからだ。

「はい。昼間は工事中で人も多いですが、
夜は手薄で侵入者が潜入しやすい場所ですから。
変わった痕跡がないか把握しておくんです」
「なるほど。でも、そんなのは銀河連盟パトロールに任せておけば良いじゃないですか。
それで変わったところがあれば、報告をしてもらえば」

研修期間内では言わなかった文句を並べる薬師丸へ、
遊太郎はおっとりと周囲を歩いたり、高層部分を眺めながら答えた。

「現場を自分の目で見なければ、わからないこともあります」

まん丸メガネは変わらずのんびりした印象を与えるが、
薬師丸のわからないところで、
彼はスキャニングを始めていた。

「ウロウロすんな。あぶねえぞ、にいちゃん」
と、日雇い労働者たちに怒られながら、
すみません、落とし物をしたらしいので、
とトボケたことを口にして、しょうがねえなあと許してもらう。

「なに落とした?ボーズ」
童顔なため、ついにボーズと言われてしまうが、
遊太郎は財布ですと適当に答え、
テントの張ったコンクリートの基礎部分に、手を突っ込んだ。

「森田さん、なにやってんですか」
さっきから呆れ果てて見ていた薬師丸だが、
遊太郎は何まで答えず、するっと手を引き抜き、
1ミリほどの小さな破片を薬師丸に見せた。
高温で焦がした跡のような金属だ。
あっという顔をする薬師丸へ、遊太郎はあどけなく笑った。

「たぶん近くに、侵入者が潜んでいます」


〜第267回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-06-20 12:33

第265回接近遭遇「あらぬ誤解」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「すみません、薬師丸さん」

遊太郎は、エレベーターボールでぶつかった時に、
散乱してしまった書類を慌てて拾い集め始めた。
薬師丸も溜め息を呑み込んで手伝う。
「これ、なんですか」
「会議資料です。営業会議の予定だったんですが、
昨夜の騒ぎで明日に伸びてしまって」
「騒ぎ……」

資料室へ向かう遊太郎について行きながら、
薬師丸は昨夜の乱闘事件について、
会社側からは不問に終わっていることに気づいた。
「僕にも責任があるはずなのに」
「薬師丸さんは研修が終わってますし」
「でも」
「神崎部長がうまく処理をされたんだと思います」
やはりそういうことかと気が引けていると、
遊太郎が腕時計を見て、薬師丸に笑いかけた。
「良かったら、お昼、一緒に行きませんか?」


社外に出た2人は、屋台からホットドッグとミネラルウォーターを買って、
河が見える遊歩道のベンチに座った。
人も少なく、穏やかな陽がさんさんと降り注ぎ、
絶好のランチタイムだった。
しばらく黙って食べていた薬師丸が重そうに口を開く。

「……昨夜は勝手に帰ってしまって、すみませんでした」
すると遊太郎は、いいえと小さく笑った。
「僕もあのあと、店には戻らずに家に帰りましたから」
「五十嵐桃子さんと住んでるマンションですよね」
「ええ」
「……そういえば、森田さんに一度訊いてみたかったんですが」

どうせ、もう遊太郎とは会うこともないのだから、
多少立ち入った事を訊いても構わないだろう。
そんな軽い感覚で薬師丸は訊いた。

「地球人女性との生活って、どんな感じですか?
合わせていくのは難しいんじゃないかと思うんですが」
すると遊太郎は、はにかむように表情を柔らかくした。
「桃子さんは、さっぱりしていますから大丈夫ですよ。
僕が作ったものは、何でも美味しそうに食べてくれますし」
「え」

薬師丸はギョッとなった。
食べかけのホットドッグをもう少しで落としそうになる。

「森田さん、もしかしたら五十嵐さんの使用人もしているんですか?」
「使用人?」
「食事の用意もしてるってことは、五十嵐さんの……」
「ああ、使われているんじゃないです。
僕、家事は嫌いではないので自然にそういう役割になっているだけです」
「はあ」
「桃子さんが幸せそうに食べている顔を見るのが好きなので。
本当にそれだけなんです」

遊太郎はごく自然だと笑うが、薬師丸は開いた口が塞がらなかった。
つまり会社では、あの高山係長の下で都合良く使われ、
家では五十嵐桃子の世話をやいているということになる。

ありえない。
薬師丸はミネラルウォーターをガブリと飲んだ。
ますます森田遊太郎という人物が分からなくなった。
昨夜、倉庫で目撃した光景は幻だったのだろうか。
凶悪な侵入エイリアン数人を、たった1人で軽く倒した彼本来の素顔と、
昼間、地球人の肉体を纏った遊太郎とは落差があり過ぎて、
自分には真似が出来ないと思った。


「……僕にはやっぱり地球での派遣調査員はムリです」
「薬師丸さん?」
「森田さんみたいに、地球人の中に同調できない」
「同調」
「ええ。現地人に混じって、
目立たないように生活を続ける気力も、
あんな危険な侵入者に対応する能力も僕にはないという事です」
「そんなことは……」

そんなことはないでしょうとフォローをしかけた遊太郎へ、
薬師丸は苛立ちを感じ、反論した。

「僕の気持ちなど、森田さんにはわかりませんよ。
普段はさも頼りない地球人サラリーマンを演じながら、
本当は、あっさりエイリアンを片付けてしまえるあなたには。
きっと内心では、功を焦る僕を笑ってたんじゃありませんか?」
「薬師丸さん……」

たたみかける薬師丸に、遊太郎にはどう答えていいのかわからなかった。


〜第266回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-06-13 12:12

第264回接近遭遇「辞めたい理由」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

翌日。
営業部内は昨夜の乱闘騒ぎで話題が持ちきりだった。
事後処理の為に斎藤課長や係長の高山は不在で、
遊太郎たちは、1人ずつ営業部長補佐に事情聴取をされ、
全く仕事にならなかった。
ようやく解放された遊太郎が自分のデスクに戻ると、
桃子が連絡メモをさりげなく渡してくれた。
薬師丸達也が研修後の挨拶に来て、
いまは人事部に顔を出しているらしいと。
人事部。そこには神崎部長がいる。


「薬師丸君。研修日程は全て滞りなく終わったようだ。
ご苦労だったね」

ビル最上階の役員室で、神崎は穏やかに薬師丸達也を迎えた。
表向きは温厚な人事部長だが、
実際は銀河連盟調査団日本支部のキャプテンの顔を持っている。

「昨夜は大変な事に巻き込まれたようだが?」
神崎は、磨かれたデスクに置かれた書類に視線を落とし、
薬師丸の言葉を待った。
彼は一礼したあと、苦い顔で詫びを口にした。

「申し訳ありません。
感情的になって、つい力を使ってしまいました。
森田さんが止めてくれなければ、
僕は高山係長を傷つけるところでした。
派遣調査員として失格です」
「誰でも最初はぶつかる問題だ。失敗を怖れては前進しない」
「いえ、それだけではありません。
僕は派遣調査員としてやっていける自信を失いました」
「自信?」

神崎の問いかけに、薬師丸は苦々しく答えた。
「僕には、とても無理です」
「おや、当初の意気込みはどうしたのかな?」
「それは……」

薬師丸は言いよどみ、いくつか深呼吸したあと、
本音を漏らした。

「森田さんは、ずるい。
普段は全く調査員の素振りさえ感じられないし、
地球人のサラリーマンそのもので、失望して呆れていたのに。
本当は、あんなケタ違いな能力を持っているなんて。
僕は何も出来ずに、ただ見ていただけでした。
レベルが違い過ぎて、おそらく誰だって自信を失いますよ。
あの人は特別過ぎるんです」

しばらく役員室には空調の音だけが響いた。
神崎は黙って聞いていたが、穏やかな表情のままポツリと言った。

「他人のレベルと比べる以前に、
異なる文化を持つ惑星の派遣調査員として生活をすること。
それが今回の研修の重要なポイントだが、
君は功を焦り過ぎたようだな」
「……」
「森田君は確かに戦闘能力においては比類がない。
だが、それゆえの苦労や負担はかなりのもので、
それを隠しながら、調査員を続けているのだよ」
「そんな風には見えませんでしたが」
「何も言わないのだ、自分の事は。トボケた男だからね」
神崎が苦笑する。

あんなに強くて何が困るのか、と納得できない表情の薬師丸に、
神崎はデスクの時計をちらりと見て、軽い調子で言った。

「さて、そろそろ昼だ。
森田君と昼食にでも行って来なさい。
もう君の研修は終わり、評価が下されるまでは、
自由に地球で過ごしたまえ」
「……はあ」
「ごきげんよう。薬師丸君」

辞める意気込みだった薬師丸は、
神崎にうまくはぐらかされた気がした。
お世話になりましたと一礼をして、役員室を退室する。
森田遊太郎とは、気まずいまま昨晩は別れたのだが仕方がない。
挨拶ぐらいはしておかなければならないだろう。

エレベーターで営業部フロアへ出た薬師丸は、
いきなり誰かとぶつかった。
白い書類が生き物のように散ってしまう。

「あっ、すみません。薬師丸さん」

慌てて謝ったのは、まん丸メガネの童顔の男、
遊太郎、その人であった。


〜第265回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-06-06 11:15

263回接近遭遇「自分の居場所」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

遊太郎がマンションに帰宅すると、ちょうど桃子と一緒になった。
彼女も女友達と飲んでいたらしく、顔がぽってりと赤い。
さらに飲み足りないのか、
缶ビールを入れたコンビニのビニール袋をぶらぶら下げてゴキゲンだった。

「そっか。遊太郎も薬師丸くんの送別会で飲み会だったっけ。
どう?盛り上がった?」
「途中までは盛り上がったんですが……」

リビングで上着を脱ぎながら、
遊太郎は高山たちが酔った勢いで他の客とケンカをした一件だけを話した。
明日会社に出勤すればわかることだから、隠すこともない。
桃子はへえっと呆れた顔で話を聞きながら缶ビールを開ける。

「つくづく、トラブルメーカーだよね。高山係長。
それで、薬師丸くんは大丈夫だった?ケガとか」
「はい」

酔っ払いの乱闘よりも、問題はそのあとだ。
街に潜んでいた侵入者を引き寄せてしまったようで、
もちろん一応確保することは出来たものの、
薬師丸と気まずい別れ方をしてしまったのだ。


(あなたが、特別過ぎるんです)

薬師丸が投げた言葉が胸に痛い。
己が並外れた特殊能力者であるために、
他人に拒絶反応を示されることは、慣れてはいたのだが……


「遊太郎?なんか元気ないじゃん」

考えごとをしている彼へ、桃子が隣に座れと命令した。
遊太郎は微笑を返して、言われた通りに座った。

「なに飲む?遊太郎」
「少しだけ、僕もいただきます」
「え?あんた、アルコール、だめじゃん。
珍しー。飲み過ぎたら、元に戻っちゃうよ?」
「誰も見てません。桃子さん以外は」
「そりゃまあそうだ」
「それに、ちょっと今夜は飲みたい気分なんです」
「ふうん」

桃子は軽く頷いただけで理由を訊かなかった。
それが遊太郎にはありがたい。
彼女はナッツを口に入れたまま、
キッチンから新しいコップを持って来た。
遊太郎にそれを持たせて、並々と冷えたビールを注ぐ。

「ようし、今夜は飲み明かそう!」
「明かすんですか?」
「そ。ハメを外すのもたまにはいいじゃん。
あたしもさ、実をいえば飲み足りなかったんだ」

友達と飲んで来たのだが、あまり楽しくなかったようだ。
口を尖らせながら、彼女はポロポロと愚痴った。

「恋バナはキライじゃないんだけどさ、
長々と彼氏とのケンカや別れ話の顛末とか聞かされてもねえ。
あんたらのアタマん中、そんなのばっかりで埋め尽くされてんのか?
って、ウンザリする。
やりたいこととか、夢とかないのかな」

遊太郎は少しずつビールを飲みながら質問した。
「桃子さんの夢は、何ですか」
「へ?あたしの夢?」
目を大きく見開く。
「はい。良かったら教えて下さい」
「へへへ。そうねえ」

桃子は酔いが回って来たせいか、桜色の頬を彼に近づけた。
トロンとした瞳に、遊太郎の胸は少しドキドキしたが、
彼女はにっこりして唇を開く。

「あたしの夢は、高原のおっきな家に、大好きな人と住むことかなあ?」
「……」

桃子は自分の頭をちょこんと遊太郎の肩に乗せた。
そのまま気持ち良さそうに寝てしまう。

「桃子さん?」
囁いてみるが、桃子は彼に身を預けたまま、
本当に心地よい夢を見始めたようだった。

彼女の寝息、温かさがすぐそばにある。
いつしか遊太郎は、素顔のレンに戻り、
彼女を優しく抱きしめていた。

大好きな人。
桃子のいうその男とは、自分のことなのだろうか。
だとしたら、嬉しさと同じほどに苦しくもなる。
自分は地球人ではない。
しかも、あまりにも多くの業を背負った男なのだ。
彼女の夢を叶えてはあげられない。


朝が永遠に来なければいいのに。
レンは桃子の寝顔を見つめ、そっと唇を重ねた。


〜第264回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-05-30 13:00

第262回接近遭遇「特別な人間」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「そのまま。動かないで。薬師丸さん」

銀髪の若い男が、背後で絶句する薬師丸に指示した。
振り上げられた侵入者の鎌首のような腕を、
瞬時に掴んだ彼が、森田遊太郎の本来の姿、
レン・ソリュートだと気づくのに時間がかかった。

ノラ猫さえ近寄らない廃屋の倉庫内部。
異形の侵入者たちの、無差別的な攻撃を、
レンはまるで翻弄するようにかわし、疲れさせたところへ、

「もう終わりか?」

と、返礼にしては冴えた手刀で、確実に1人ずつ地に沈めてゆく。

……あれは、誰なんだ。
薬師丸は呆けに取られた表情で、ただ信じられない場面を見ていた。
本当にあの男が、数日間行動を共にして来た、
頼りない遊太郎なのだろうか。
上役や先輩社員に都合良く使われているサラリーマンではない。
姿かたちや声だけではなく、纏っている雰囲気も、
ケンカ慣れしたように容赦ない動きすら、別人過ぎる。

最後に残った2人を、同時にあっさり床へ叩きつけたあと、
レンは、虫の息のエイリアンの1人へ向かって尋問した。

「おい」
「……」
「まだ寝るな」
「……あ、あ?」
「地球へは何の目的で侵入していた?」
「面白いから、だ」
「面白い?」
「見栄をはった、地球人ども。
何の力も、ないくせに……」
「それで?」
「弱いくせに、ちょっと威嚇すりゃ、逃げ回る。
その、情けない風体が面白い。だから、この惑星に来たのに」

どうやら、夜の街に潜んで、地球人を脅していたようだ。
潜在的にはまだ散在しているはずで、パトロールを強化する必要があるだろう。
しばらく間をおいて、レンは最後の一撃を喰らわせ、
クールな捨てセリフを吐いた。

「悪趣味だな」



倉庫内部へ、
銀河連盟パトロールが現れて撤収されるまで、
薬師丸は全く動けなかった。
筋肉が縮み上がったようになっている。
凶暴な侵入者の攻撃のせいばかりではない、
もっと彼を驚愕させたのはレンだった。
自分も同じ派遣調査員だ。
その、多少腕に覚えがあるはすの薬師丸さえ、硬直してしまうほどに、
レンのケタ違いのレベルにショックを感じてしまったのだ。


「大丈夫ですか?」

ふと気づくと、傍らに心配そうに立っているのは、
遊太郎、その人だった。
いつの間にか、姿が戻っている。
いや、戻ったというより派遣調査員としての特別任務以外は、
地球人の肉体に切り替えているのだが。
いまさっきの光景が夢か幻に思えた。

「黙って店を出たので、高山係長は今頃怒ってるでしょうね。
でも、薬師丸さんは気にしないでいいですよ」

「……気に、します」
カラカラに乾いた声が、薬師丸の口からもれた。
「え?」
「研修を終えても、派遣調査員として、やっていけるか、
わからなくなりました」
「薬師丸さん……」
覗き込む遊太郎へ薬師丸が言った。

「あなたが、特別過ぎるんです」

その言葉に遊太郎は言葉に詰まって、彼を見た。
すっかり自信喪失をした薬師丸は、
遊太郎と視線を合わさず、失礼しますと頭を下げて倉庫から出て行った。


あなたは、特別過ぎるんです。

言われた言葉を脳裏で反芻する。
遊太郎は、ため息を吐いた。
そう思われてしまうのには慣れてはいた。
慣れてはいても、寂しさを感じさせる言葉だった。


〜第263回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-05-23 12:39

第261回接近遭遇「侵入者現る!」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜
★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

薬師丸の内に怒りの火がついた。
酔った勢いで、中年男と殴り合いをしている高山の背中へ、
サイキック能力を発動したのだ。

「いけない……!」

すぐに遊太郎は不可視のバリアを放った。
赤い火花が一瞬散って消える。
空気魂を受けたように、
高山と中年男は格好悪く床に折り重なった。

「ああ?なんだよ、痛えじゃねえか!」
下敷きになった高山が毒づき、中年男も赤ら顔で起き上がる。
遊太郎は、高山が無事なのをさりげなく確認して安堵したが、
店長が駆けつけて来て店の惨状に目を剥いた。

「お客さん。なんてことしてくれたんですか。
これ、弁証してもらいますよ?」
屈強そうな店長の威圧感に、
高山たちは苦虫を噛み潰して頭をかくしかなかった。
床に座り込んでいた薬師丸だけが、茫然と目を泳がせる。

(……力を放ったのに、また森田さんにリセットされた?)


高山たちがケンカの連帯責任を問われている隙に、
遊太郎は、薬師丸をそっと外へと連れ出した。
暗い路地裏を抜け、人気のない方へ黙々と歩き続ける遊太郎へ、
薬師丸は怪訝そうに声をかけた。

「あ、あの、森田さん?」
「振り向かないように歩いて下さい」
「?」

寂しい街外れに来て、ようやく薬師丸は気づいた。
不穏な気配が周囲を取り巻き始めたことに。
廃屋となった倉庫辺りまで辿り着いた時、
遊太郎は、ゆっくり頭を巡らせた。

「薬師丸さん」
「はい」
「さっき、力を使ったでしょう」
「ああ、すみません。つい、カッとなって……」
「あれは、空間に振動を起こすので、
地球外生物が引き寄せられることがあるんです」
「地球外生物……、それは侵入者のことですね?」

それを聞いた薬師丸は急に興奮した。
エキサイティングな事件が起きず、思えば退屈な研修だった。
しかし、その最終日に、派遣調査員らしい仕事が出来るかもしれない。

「森田さん、侵入者確保は僕に任せて下さい」
「でも、薬師丸さん、油断をしては……」
「何を言ってるんですか。
地球では初めてですが他の惑星じゃあ、けっこう経験してますから。
森田さんは後ろで見物していて下さい」

薬師丸は、名誉挽回だと言わんばかりに両手を揉む真似をし、
先刻のように熱いエネルギーを内に蓄え、
自信満々に遊太郎の前に立った。

しかし、ざわり、と濃密な気配が辺りを塗り替えた。
廃屋に集まったのはなんと1人ではなかったのだ。
猪首のような頭の異星人が数人。
茶色く焦げたような体を薄汚れた服が包んでいるが、
濁った黄色の、感情のない目が横に切り裂かれ、
2人を品定めをするように近づき始めた。

「派遣調査員か」
ざらざらした声た。
「目障り。つぶす」
「つぶす。同意」
「同意」
「同意」

その時、
くの字に曲がった腕が、しゅうっと煙を発し、
予告もなく薬師丸へ伸びて来た。
「わっ!」
攻撃が見えず、かわした薬師丸のネクタイが切れて落ちた。
急に心臓がばくばくと波打つ。
奴らの泥臭い姿とは裏腹に、俊敏な腕を持っていた。
立て続けに釜のような腕が容赦なく襲って来るために、
薬師丸はサイキックパワーを使うタイミングを失い、
次第に焦りと不安を覚えた。

背後の遊太郎は、普段からぼんやりしているし、
頼りにならないと勝手に決めつける。
かといって、このままでは2人とも殺られてしまう。
再び鎌首が薬師丸めがけて振り下ろされた。
もう、ダメだ。そう思った瞬間、その鎌首のような腕が、
彼の頭上で制止している光景が目に飛び込んで来た。

「?」

いつの間にか、誰かが薬師丸の前に立っていた。
侵入者の鋭い腕を掴み、動きを封じている。
長身痩躯の男の銀髪がわずかに揺れて、
低い、しかし良く通る声が空間に響いた。

「そのまま……。動かないで。薬師丸さん」


〜第262回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-05-16 11:28

第260回接近遭遇「乱闘事件発生!」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

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翌日。
薬師丸達也は研修最終日を迎えた。
結局、日常的な地球人の生活様式はわかったものの、
期待するようなエキサイティングな事件もなく、
営業担当の男性社員だけで飲み会へと流れ込むことになった。

「で、研修が終わったら、どこの勤務地になるんだ?薬師丸」
広い洋風居酒屋で、ほろ酔い気分の高山がワイン片手に訊いた。
すると、遊太郎の隣で大人しく飲んでいた薬師丸は、
少し考えたあと答えた。

「まだ決まってません」
「まだかよ?」
「研修の評価が終わってから配属先が決まるようです」

薬師丸は、表向き保険会社の営業研修生だが、
実際は遊太郎と同じく地球に派遣された銀河連盟調査員である。
どのエリアへ派遣されるかはまだ未定というわけだった。

「お前、生意気だけどよ、
営業面じゃ、わりあい評価は高いはずだぜ。
森田に比べりゃな」
高山がニヤニヤして意地悪なことをつぶやき、
皆の失笑を買った。
「1年たつのに、パッとしねえもんな。コイツ。
デカい契約ひとつも取ってくりゃ、オレだって営業指導の甲斐があるのによ」

聞かされている遊太郎はすみませんとはにかんだように笑い、
他の先輩社員たちが、そうだそうだと同意する光景に、
薬師丸には情けなく思ってトイレを理由に席を立った。

様々な人間たちが群れる広い店内は騒がしく、
タバコや酒の匂いが鼻につく。
出来るだけ早く外の空気を吸いたい。
そう思って急ぎ足になった為に、誰か他の客とぶつかってしまった。
その拍子に、その客が手にしていたワインが服を汚し、
怒声が店内に響き渡る。

「どうしてくれんだよ?買ったばかりの服だぜ」
中年男性だが、目つきが禍々しい。
連れの男たちも一緒になって避難する。
「あ、ホントだ。ひでえシミ」
「いくらすると思ってんだ?このブランド」

面倒なことになりそうだったので、薬師丸はすぐに謝り、
「クリーニング代を出させて頂きます。本当に申し訳ありません」
と、上着の内ポケットから財布を出した。
すると、シミをつけられた中年男が財布をはたき落とす。

「クリーニング代で済むか。オーダーメイドの服なんだぞ。30万だ」
「30万?」

薬師丸が驚いていると、面白そうに見物に来た高山が、
部下の不始末を詫びるどころか、余計な言葉を吐いた。

「何だよ。30万するブランドか?オレのより安物じゃねえか。
ぼったくりかよ。しけたオッサンが」
「なんだと、コラぁ!」

カッとした中年男が高山をいきなり殴りつけた。
とたんに周りのテーブルに盛られた料理が皿ごとぶちまけられ、
ビールやワインのガラス瓶が割れ狂う音がした。

「高山係長!」
遊太郎が現場にやって来た時には、高山が相手を殴り返したあとで、
薬師丸も、加勢した他の男たちに殴られている最中だった。
店のスタッフが慌てふためき、止めに入ろうとするが、
酔った男たちはパワフルで、引くことを知らなかった。

なんとか止めないと警察沙汰になる。
しかし目立った行動は控えなければならない。
仕方なく、遊太郎はスタッフと一緒に止めに入るしかなった。

「駄目ですよ。高山係長。ここは引き下がって謝ってください」
「るせえ。てめえもボコボコにされたいか?森田」

血の気が多い高山は日頃の鬱憤を晴らすかのように叫び、
中年男と殴り合いながら、薬師丸にも毒づいた。

「お前もな、薬師丸。やられたらやり返せねえか!
オレに意見するくらい勢いがあるくせに、口先だけかよ」
「!」
男たちに殴られ、床にたたきつけられていた薬師丸が、
それを聞いて口を悔しげに歪ませた。
なおも高山の挑発は続く。

「お前も森田みたいに情けない男になっちまうぜ?」

薬師丸の目に火がついた。
いけない、と思った遊太郎の前で、薬師丸の力が発動した。


〜第261回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-05-09 15:44

第259回接近遭遇「セレブな花嫁候補!」

〜もし、あなたの彼氏が宇宙人だったら?〜

★森田遊太郎(23)=レン・ソリュート★
地球に派遣された銀河連盟調査員。
普段は高校生のような童顔にまん丸メガネ。
おっとりした新人営業マンだが、
その正体は、プラチナの髪と青灰色の瞳を持つ美しき異星人である。

★五十嵐桃子(26)★
遊太郎の正体を知る、同じ会社の勝ち気で現実的なOL。
宇宙人やUFOには全く興味がない男前な女性。

この2人、表向きイトコ同士としてルームシェアをしているのだが.....?

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上司ロータスのコールサインを受けて、
森田遊太郎から本来の姿であるレンへ戻った彼は、
月の裏側に浮遊する銀河連盟ステーションへ、
瞬間的に転送を果たした。
コントロールセンターの流線型デスクから、
悪戯っぽく片目を瞑って見せる。

「やあ、レン。旅行者がゲストルームで待っている。
すぐに行きたまえ。かなり美人だったぞ」
「女性の旅行者、ですか?」
「君の花嫁候補者の1人のようだがね」
「……」

花嫁候補。
レンの母星、ソリュート星団の王族には、
複数の花嫁候補者が生まれながらに決まっているのだ。
もちろん恋愛や結婚は本人の自由だが、複数の花嫁を持つ事が可能なため、
生涯を通じて候補者たちのアプローチは止むことはない。
レンの迷惑そうな表情を面白がる上司を後目に、
彼はゲストルームに入室した。

月に浮遊するステーションの中とは思えないほど、
ゲストルームは花々に囲まれ、噴水さえ設置された広大な部屋である。
数人のボディガードを奥に従えた1人の女性が椅子から立ち上がり、
噴水の前に立つレンへ近づいた。

「レン・ソリュート王子様。エリカ・ロードと申します。
お目にかかれて光栄ですわ」

彼女はうやうやしく微笑した。
見事なプロポーショナンを意識してか、
光を放つ透けるような柔らかい衣服に身を包んでいる。
金色の巻き毛にグリーンアイ。
明るく華やかな顔立ちは誰かに似ている。まさか……?

「あなたはサーフィスの?」
「ええ。妹です」
「妹」
「兄の話題はいつもレン王子様のことばかり。
私は、ずっとあなたを遠目には見ていて……
でも、このように近くでお会いするのは初めてです」

エリカは感動を抑え切れないように、
彼を熱い眼差しで見つめ、両手を合わせた。
「レン王子様。噂以上に、これほどお美しい方とは……!
花嫁候補に選ばれるなんて、胸がつぶれそうなほど光栄ですわ」

頬をバラ色に染めるエリカとは逆に、レンは多少うんざりしてしまった。
元々、あまり婚姻問題には触れたくなかったが、
まさか候補の1人が、友人サーフィス・ロードの妹とは。
顔立ちもそうだが、性格も兄のサーフィスに少し似て、
一方的に盛り上がっているのも困った。

「兄が度々地球へ旅行しているらしいのに、
花嫁候補者の私がレン王子様に会えないのは不公平ですし、
ようやくムリを言って参りましたの。
お仕事の邪魔にならぬように致しますから、
滞在中だけでも、こうして時々は会って下さいますよね?」

グリーンの瞳を潤ませ、形の良い胸を意識して近づいて来るエリカに、
レンは制止をかけるように少し低い声のトーンで言った。

「僕は数年前ソリュート星を捨てている。
もう王子ではありません」
「……でも」
「あなたのご期待には添えられない。ソリュート星へ帰られた方がいい」

きっぱり言ってレンはエリカから離れて歩き去ろうとした。
すると、彼女がその背へ向かって声を放った。

「地球で好きな方がいらっしゃるそうですね?」
「……」
「私、あきらめません。
あなたはきっとソリュート星団へお戻りになりますもの」

それには答えず、レンはゲストルームを出た。


コントロールセンターへ戻った彼を、ロータスが苦笑いをして迎えた。
「疲れたかね。レン?」
やっぱり面白がっているようだ。
彼は無愛想に答えた。
「サイキックジムで少し汗を流して来ます」
「侵入者退治は平気なくせに、こういうケースは苦手なようだな?」
「からかわないでください」
「いや。桃子くんが知ったら、もめそうだと思ってね」
「……」

桃子は既に花嫁候補の存在を知っていた。
ただでさえ機嫌が悪い桃子のところへ、
エリカが地上に降りて、桃子に接近したら、それはまた厄介なことになる。
レンはサーフィスに連絡を取ろうと決めた。


〜第260回をお楽しみに♪〜
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# by yu-kawahara115 | 2010-05-02 13:27